生産性の低下抑止のためのウェアラブル機器による体調の推定と予測
髙橋雄太 (1651067)
体調の不具合は誰しもが経験することがあり,生活習慣,寝不足,食生活やストレス等様々な要因で生じる.
疾患に比べれば体調は軽視されることが多いが,日々の生活での体調の不具合は活力の低下や集中力を妨げる要因となり,生産性の低下を引き起こす.
1日の体調の推定や次の日の体調の予測ができれば,体調のモニタリングや体調不良の抑止などに利用できる.
しかし,体調のような内的な状態は,動作などの外的な状態とは異なりセンサでの推定が難しいとされている.
体調が良い状態,悪い状態共に生活習慣が影響していることから,体調の推定や予測には生活周期を取れるようなセンサが必要となる.
人の生活を常時センシングできるデバイスとしてウェアラブル機器が利用できる.
歩行,心拍,睡眠のような日々の活動であるライフログをウェアラブル機器から収集し,解析することで生活周期を抽出できると考える.
ウェアラブル機器から得られるライフログから体調の推定と予測が行えるのかを検証・評価することを本研究の目的とする.
本研究では,まず労働生産性に影響の大きい体調を過去の研究から調査・選定し,選定した体調が既存の技術で測定・推定可能か調査した.
調査結果から,体調の推定には心拍センサが有用であることを確認し,実験では心拍センサを搭載したウェアラブル機器を利用した.
体調の推定・予測手法として,まず,ライフログから時間,生活周期に関する特徴量を自己相関関数などによって抽出する.
自己相関関数は同じ波形を畳み込みさせながら相関を算出する関数で,波形のおおよその周期を求めることができる.
特徴量を説明変数,主観的なメンタルヘルス(3クラス:悪い,普通,良い),フィジカルヘルス(3クラス:悪い,普通,良い),体調不良の度合いを目的変数とした推定モデルと次の日の体調の予測モデルをSupport Vector Machineを含む3種類の機械学習アルゴリズムで構築する.
提案手法の有用性を評価するため,10名の実験協力者を募り,ライフログと主観的な体調に関するアンケートの回答を1ヶ月半に亘り収集した.
実験のデータを用いてモデルを構築し推定・予測能力の評価を行ったところ,フィジカルヘルスは,88.1%の精度で推定,84.0%の精度で予測でき,
メンタルヘルスは,93.2%の精度で推定,94.1%の精度で予測できた.
体調不良の度合いに関しては,データ量が十分でないなどの理由で,適切な推定・予測モデルの構築できなかった.
これらの結果から,ウェアラブル機器のみでフィジカル・メンタルの調子を個人依存のモデルで高い精度で推定・予測できることを明らかにした.