オンラインレシピユーザを対象とした個人の嗜好に合わせた調味料の分量調整支援

木戸 勇太 (1651043)


近年,スマートフォンの普及に伴い,Allrecipeやクックパッドなどのオンラインレシピのユーザ数が増加している.実際,60\%以上の主婦がオンラインレシピサイトを使用する機会が増えたと回答しており,オンラインレシピサイトのレシピを見ながら料理をする人は増加していることがわかっている.オンラインレシピは無数に存在するが,レシピごとに記載されている味付けは1通りであるため,そのレシピに従ったとしても,ユーザの嗜好に合った料理ができるとは限らない.そこで予備実験として個人毎の嗜好にどの程度ばらつきがあるのか独自に調査したところ,レシピの規定量より濃度から-20\%,又は,+20\%調整したものを適量と判断した被験者は全体の3分の1であった.また,76.5\%の主婦が料理の手間を省くために様々な工夫をしていることがわかっている.しかし,調味料を投入する動作については,工夫の方法は存在せず,その都度計量スプーンを使用するか,計量スプーンを持っているにも関わらず目分量で投入を行っている人が過半数以上存在することがわかっている.そこで予備実験としてどの程度目分量での投入によって誤差が生じるのかを独自に調査したところ普段から料理を行っている人でさえ30\%以上の誤差があることを確認した.

本発表では,人が料理をする際の負担を軽減しつつ,その人の嗜好に合う味付けを可能とするシステムを実現することで,食生活を豊かにすることを目的としている. そのためには,(1)個人の嗜好モデルを構築すること,(2)個人の嗜好モデルを基に味付けの度合いを変更し,投入する調味料の分量を決定すること, (3)調味料の分量をユーザが容易かつ高精度で投入できるようにすることの3点の課題が挙げられる. しかし,既存研究において嗜好に近いレシピの推薦を行うシステムは数多く存在するが,嗜好をシステムが把握し,嗜好を基にレシピの分量を調整する研究や調味料の投入を嗜好に合わせ支援する研究は存在しない. そこで,(1)(2)を解決するために,味に存在する5つの基本味である五味(甘味,苦味,酸味,塩味,旨味)について食事毎に評価を行い,その都度嗜好モデルを調整することができ,嗜好モデルを基にレシピデータの調味料分量を調整するシステムの提案をし,開発した. そして(3)を解決するために,投入中にリアルタイムで調味料の投入量を教示するスマート調味料入れの開発を行った. そのためにこのデバイスは,調味料入れの上部に角度情報を取得することのできるセンサーを内蔵する機構とした.

開発したシステムによる食事後のユーザの評価データを基に嗜好の分析を行った結果, 2日間の嗜好モデル分析実験では,過半数の被験者に対して適切な嗜好モデルを構築するには,評価データが不足していた.そこで追加で行った2週間の嗜好モデル分析実験では,7日目の嗜好モデルと14日目の嗜好モデルを構成する味覚5要素の各要素の値の差が6\%以内であったために7日間でユーザの嗜好を把握することができたと考える. 加えて開発したスマート調味料入れのリアルタイム投入量推定精度について検証した結果, 最大誤差 6.5\%で調味料を投入できることを確認した.