近年,環境保全や健康増進,観光用途といった観点から自転車利用者が増加している. 我が国おいては,国土の狭さや複雑な地形を原因に,自転車道の整備が進んでおらず,多くの場合自転車利用者は車道を走行する必要がある. そのため,安全な経路を選択することが自転車乗車中の安全性の向上のために重要であると言える. しかし,現状安全な経路を選択するために必要となる 道路毎の通過車両数・車種・車両速度・側方距離(自転車と車道を走行する車両との距離)といった走行安全性情報が不足している. また,これらの情報を収集するには大きな時間的・金銭的コストがかかるため,網羅的な情報収集が困難である.
本研究では,上記の問題を解決するために,自転車ユーザが所有するスマートフォンから取得されるセンシングデータを用いたユーザ参加型センシングによる走行安全性情報の収集を試みる. これまでに自転車に取り付けたスマートフォンのみを用いて,車道を走行している車両の検出を行っている研究は我々が調べた限り存在しない. そこで,本研究で取り扱う課題として,課題1:車両検出のために適切なセンサを明らかにすること,課題2:検出車両に車種に制限がないこと,課題3:車両速度や側方距離を含めた走行時安全性情報を検出が可能なこと の3点をあげる. まず,課題1を解決するために,スマートフォンに搭載されているセンサ類から走行安全性情報の収集するための有用なセンサを選定するために事前実験を行ったところ,マイクを用いることが適していることが明らかとなった. 次に,経路の安全性を評価する上で必要となる課題2および課題3を解決すべく,自転車のハンドルバーに取り付けたスマートフォンから収集される走行音を用いた2種類の接近車両検出手法を提案する. 1つ目は,走行中のモノラル環境音に対して周波数解析と機械学習により接近車両を検出する手法,2つ目はスマートフォンに搭載されている上下2つのマイクから収集されるステレオ環境音の到着時間差を利用した接近車両を検出する手法である.
それぞれの提案手法の検出性能を明らかにするために,評価実験を行った. モノラル環境音および機械学習を用いた手法では,接近車両をF値0.97で接近車両を検出できることが分かった. また,ステレオ環境音の到着時間差を利用した手法では,接近方向別に車両数をF値0.80で検出可能であることが分かった. 加えて,今回提案した2つの手法を組み合わせることで,走行安全性情報のうち,車種,車両速度を推定可能であると示唆される結果が得られた.