着座姿勢の継続的な識別を可能にするセンシングチェアの開発と評価

音田恭宏 (1651029)


近年,オフィスワーカのパソコン等を用いた1日当たりのデスクワークの時間が増加しており,デスクワークが長くなるにつれて身体的疲労を感じている人は増加傾向にあり,死亡率・肥満・心疾患・糖尿病などのリスクに繋がる. また,好ましくない姿勢は身体への負担が大きく,腰痛や肩こりなどの悪影響を引き起こす. そのため,健康状態悪化の予防や作業効率の向上にはオフィスワーカの着座姿勢の識別や座位時間の計測を行い,姿勢の改善や同一姿勢による長時間作業の防止を行うことが重要であると考えられる. これまでに着座姿勢の識別に関する研究は数多く行われているが, (1) カメラ等の機器によるプライバシーの侵害がある, (2) 椅子に数多くのセンサを取り付けているため椅子本来の性能を損ねている, (3) センサの設置位置に制限がある, (4) 身体にセンサを取り付ける場合は煩わしさがある, (5) 識別できる着座姿勢の種類が少ない, (6) 評価の際の実験協力者の人数が少なく,様々な体格の人が座った場合においても,同様に着座姿勢を識別できるか不確か等の課題が残されている.

本研究では,上記の課題を全て解決したオフィスワーカの着座姿勢を識別する手法を提案し,着座姿勢を継続的に連続して観測可能なセンシングチェアの開発を行う. 開発するセンシングチェアは課題(1)(2)(3)(4)を達成するために8つの加速度センサが椅子の裏側に取り付けられており,加速度センサの傾き角度から着座姿勢を識別する仕組みになっている. 識別する着座姿勢は椅子の座面に対する上半身の左右の傾きである「左・中央・右」の3通り,前後の傾きである「前傾・直立・後傾」の3通り,座る深さである「前座・奥座」の2通りの組み合わせである18種類と離着席を判別するための離席である. 合わせて19種類の着座姿勢であり,これまでの研究で識別している着座姿勢の種類より多く,オフィスワーカが取りうる着座姿勢をカバーしており,課題(5)を解決している. より良い識別精度を探るために,提案する着座姿勢識別手法は3種類あり,1) 「加速度センサの傾き角度を特徴量にした識別手法」, 2) 「離席時からの相対的な傾き角度の変化を特徴量にした識別手法」, 3) 「標準姿勢からの相対的な角度の変化を特徴量にした識別手法」である.

提案する着座姿勢識別手法の有用性を評価し,課題(6)をクリアするため,述べ28名の様々な体格の実験協力者は各着座姿勢を行い,加速度センサのデータを収集してLeave-One-Participant-Out Cross-Validationで様々な機械学習を用いて識別を行った. 用いた機械学習は「ロジスティック回帰」「k近傍法」「決定木」「ランダムフォレスト」「SVM」「ニューラルネットワーク」の6種類である. 結果,提案した全ての着座姿勢識別手法においてニューラルネットワークによる識別が最も精度が良く,手法1では75.4%,手法2では83.7%,手法3では,85.6%であった. 加えて,ランダムフォレストから得られる特徴量の重要度からセンサの取り付ける重要な位置を検討したところ,椅子の中心線上に取り付けられている加速度センサの重要度が高いことがわかった. また,重要度の高い中心線上の加速度センサ4つによる識別精度は78.6%となり,センサの数を減らしても8割近い識別精度を有していることを確認した.