避難シミュレーションの反復による動的混雑状況の再現に基づいた災害時の最適避難場所決定手法`

梅木 寿人 (1651020)


災害時には被災者の迅速かつ的確な避難行動が重要であると認識されている. 現状の避難誘導は,現在地から最寄りの避難所へと誘導する方法が一般的であるが,京都のような多くの観光客で賑わう観光地で災害が発生し,多くの人々が一斉に避難を開始すると,避難経路の混雑や避難所の収容数超過を招き,結果として被災者の避難行動が遅れてしまうという問題が発生する. 本発表では,観光地や大都市など多くの人々が活動している混雑地域を被災地の対象とし,全ての被災者の避難にかかる所要時間の総和を最小化することを目指した避難場所決定手法を提案する. 災害発生直後の混雑状況を考慮して避難経路を決定しても,避難指示に従って多くの人が一斉に避難することで新たな混雑が生じ,避難時間を遅延させる. その結果,混雑に巻き込まれて最寄りの避難所に避難するより,混雑に巻き込まれずに少し遠い避難所に避難したほうが早く避難できる状況が発生する可能性がある. 混雑状況は人の動きによって時々刻々と変化していくため,災害発生直後に正確な避難時間の見積もりをすることは非常に困難である.

提案手法では,避難所の収容可能数を考慮するために複数ナップサック問題を解き,避難先を決定する. その後,シミュレーションにより経路上での混雑を再現することで,混雑を考慮した避難時間を推定する. 最後に,推定結果から全ての被災者の避難時間の総和を小さくするような避難先の再決定を行う. これらのステップを繰り返し実行することで準最適な避難場所を得る. 評価実験として,京都の祇園祭を想定したマップに一般的な避難場所決定手法を適応した場合と,提案手法を適応した場合を比較した. 結果として,最短経路選択に基づく平均避難時間1152秒,ランダム選択の平均避難時間1560秒に対して,提案手法に基づく平均避難時間を587秒にまで短縮できた.