スマートデバイスを用いたHRQOL簡易評価手法

雨森 千周 (1651003)


長期に渡る過度のストレスを抱えた生活は,身体的,精神的機能の低下に繋がり,うつ病,認知症,生活習慣病といった疾病を引き起こす可能性がある.この問題を解決するためには低下兆候を早期に特定することが重要となる. 健康に関連のあるQOL(Health Related Quality of Life:HRQOL)は主観的健康感や,毎日の仕事,家事,社会活動への影響度を定量化したものであり,継続的に計測することで,身体的,精神的,社会的活動能力が減退し始める兆候の発見と予防に繋げる事ができる可能性がある. しかしながら,既存手法ではHRQOLを評価するために多数のアンケート項目に回答する必要があり,毎日の測定は負担が大きい. また,スマートデバイスを使用した生活行動の評価手法も提案されているが,評価手法を独自に設けている,特定の行動のみを対象としているため,生活全体の質を評価するには不十分である.

本研究では,HRQOL評価値を継続的に測定するために,スマートデバイスを用いてアンケートへ回答する負担を軽減するHRQOL簡易評価手法を提案する. 本手法ではHRQOL評価手法の一つであるWHOQOL-BREFを対象に,その回答値(教師データ)と,スマートフォンとリストバンド型ウェアラブルデバイスから得られるデータをもとに各質問事項への回答値を推定する機械学習モデルを構築する.

本手法の実現可能性を評価するために,半年間一人の被験者からデータ収集を行い,評価実験を行った. 実験結果として,特徴量を選定した推定モデルでは,相関係数0.646で正解値を追従できることを確認し,重要度の高い特徴量が設問ごとに異なる傾向があることを明らかにした. また,簡易化と推定精度に関する検証を行い,求める推定精度に応じて簡易さを調節できる可能性を示した. 今後の被験者実験に向けた試みとして,学習期間と使用するセンサ数に関する検証を実施し,推定精度の向上には長期間の計測が必要なことに加え,加速度センサ,心拍数センサ,GPSセンサのみを使用した場合でも相関係数0.645で正解値を追従できることを明らかにした.