動物考古学における比較のための拡張現実感インタフェースの有用性評価

REN HU (1551130)


 遺跡を発掘調査すると,器物,骨,貝,種実,木材などの遺物が出土し,堆積した土壌には,花粉,珪藻,植物珪酸体が残されていることがある.こうした動植物遺存体は,過去の自然環境や当時の人々の生活のために,利用した動植物が当時の人と自然の関係性を知るにあたり,重要な資料である.そして,こうした遺跡から出土した動植物遺存体を研究するためには,現生標本と比較することが不可欠である.しかしながら,出土遺物の移動は難しいため,動物考古学研究者が出土遺物の存在する場所へ赴き,写真やスケッチなどを行い持ち帰ることで比較を行っているのが現状である.このような現状に対して,動物考古学研究者らは不便さを感じているということがフィールド調査を行うことによって明らかになった.

 本研究では遺物と現生標本の比較に着目し,出土遺物を移動することが困難であるという問題を,デジタルアーカイブと拡張現実感のような情報科学技術で解決しようと試みた.これまでに,拡張現実感を用いた比較するためのアプリケーションでは,同一物体の時系列変化の比較や同一物体の形状変化の比較に関する情報提示手法の有用性の検証が行われている.しかし,動物考古学研究では異なる個体間で同一部位の骨を比較することで作業が行われている.動物考古学における比較のための拡張現実感を用いた情報提示手法の有用であるかは明らかになっていない. そこで,動物考古学研究者に聞き取り調査し,要求分析を行い,研究者にとって困難であることは遺物の移動と遺物に対して多視角で遺物を観察ことが問題である.そして,遺物または現生標本を3Dデータで代替えすることで問題を解決することが可能と想定した.最後に,得られた知見に基づくシステムを試作し被験者実験を通して,ARを用いた比較のためのインタフェースの有用性について検証を行い,実験結果では遺物を観察する際,研究者の研究歴と関係あることがわかった.動物考古学研究における比較の作業において拡張現実感を用いた情報提示手法は有用性を示した.本論文では研究者の研究歴と提案情報提示手法との関係性について述べた.