三辺測量方式と距離−照度モデルに基づく屋内位置推定手法とその評価

守谷 一希 (1551109)


 近年,屋内での人やモノの位置情報を利用したサービスが注目を集めている. 例えば,屋内ナビゲーションや子供や高齢者の見守りサービス,エアコンの省エネ家電制御などが挙げられる. これらのサービスを実現するためには,比較的高精度かつ安価な屋内位置推定システムが必要である. さらには,太陽光の影響を受けない等の実環境での使用に耐える位置推定システムが必要である. 先行研究として,照明装置と照度センサを用いた屋内位置推定手法が既に提案されている. この手法では,複数ある照明装置の点灯パターンを切り替えて対象位置の照度を変化させることで,照度センサの位置を推定する. これにより,低コストかつ高精度に位置推定することが可能である. しかしながら,この手法では,太陽光などの外光の影響を受けてしまう点や,照度分布における領域の境目付近で位置推定精度が悪くなる点,人の影の影響を受ける状況では位置推定できない点などの問題が存在する.

 本研究では,照明装置からの距離と照度の関係を表す距離−照度モデルを用いた三辺測量法式に基づく屋内位置推定手法を提案する. 提案手法では,予備計測により,ある1つの照明装置における距離−照度モデルを予め求めておく. 位置推定時には,対象空間内に予備計測で使用した照明装置を3つまたは4つ設置し,それらを順番に点灯させる. その際に得られた照度を基にそれぞれの照明装置からの距離を距離−照度モデルを用いて求め,三辺測量方式により推定位置を決定する. この手法では,先行研究の問題点を全て解決することが可能である.

 1つの照明装置を対象空間の隅に設置し点灯させた状態で,対象空間内の複数の点における照度を計測し,その際の距離と照度のデータを用いて最小二乗法により距離−照度モデルを求めた. また,評価実験を行う為に,自動で照明装置を順番に点灯させて対象空間内の照度センサの位置を推定するシステムを構築した. 評価実験では,照明装置が3箇所または4箇所に設置された部屋を対象空間として位置推定実験を行い,位置推定精度や最大誤差などの評価を行った. 実験環境として,太陽光などの外光ががある場合,家具などの障害物がある場合,メガネに取り付けられた照度センサを用いて人の位置を推定する場合それぞれの状況下で位置推定を行った. その結果,照度センサのみを対象空間内に設置した場合において,太陽光や家具などが対象空間内に存在する環境下で,2次元座標位置(3次元)が平均約0.5m(0.6m),最大約1m(1m)の誤差で推定可能であることを確かめた. さらに,メガネに取り付けられた照度センサ使用の場合においては,2次元座標位置(3次元)が平均約0.9m(1.1m),最大約1.7m(2.5m)の誤差で位置推定可能であることを確かめた.