IoTデータ流の実時間処理を実現するIoTデバイス向け分散処理ミドルウェアの設計と評価

中村 優吾 (1551068)


Internet of Things技術の急速な発展に伴い,実世界のあらゆる場所にIoTデバイスが導入され,多種多様かつ大量のIoTデータ流が生成され続ける時代が到来しようとしている.現状,IoTデバイスを活用した応用システム (IoTシステム) は,クラウド一極集中型のアーキテクチャを採用しているが,将来的には,通信容量の不足やクラウド側の計算・蓄積資源の枯渇といった問題が発生するため,これらの問題を根本から解決する新たなアーキテクチャが求められている.我々の研究グループでは,「地域で生成されたIoTデータ流を地域で処理して利活用する:地産地処」をコンセプトとして,IoTデータ流をデータの発生源に近いIoTデバイス群を活用して分散処理する新たなフレームワークとしてIFoT (Information Flow of Things)を提案している.

本論文では,IFoTの実現に向けた具体的なアプローチとして,3つの課題(課題1:統一的に取り扱い可能なIoTデータ流の生成,課題2:IoTデータ流の実時間処理,課題3:IoTデバイスの容易な追加と削除)に焦点を当て,IoTデバイスの上位で動作し,多種多様なIoTデータ流の処理タスクをクラウドレスで分散実行する「IFoTミドルウェア」を設計し,そのプロトタイプを開発する.IFoTミドルウェアでは,課題1の解決に向けて,多様なIoTデバイスから生成される異種のデータ流を統一的に取り扱うためにメタデータのフォーマットを策定すると共に,メタデータを付加して統一的なIoTデータ流を生成するためのゲートウェイ機構を実現する.課題2の解決に向けては,アプリケーションが要求する高次IoTデータ流を生成するための処理手順と,地理的エリアや時空間解像度,許容遅延などの品質を要求クエリとして記述するための言語を策定すると共に,要求クエリの内容に従って,IoTデバイス群上で処理タスクを分散実行するための機構を実現する.課題3の解決に向けては,GUIの操作だけで簡易的に,IFoTにおける処理クラスタへの参加・離脱を管理可能な機構を設計する.

IFoTミドルウェアの有効性を検証するために,小型の汎用デバイスであるRaspberry Piを用いて,各機構(A : 統一的なIoTデータ流生成機構, B : 高次IoTデータ流生成タスクの分散実行機構)に関する性能評価実験を行った.実験の結果,統一的なIoTデータ流生成機構に関しては,1フレームが10〜100Kbyteのデータ流に対して,素早くメタデータを付加し,実時間で流通可能であることがわかった.また,高次IoTデータ流生成タスクの分散実行機構に関しては,1台のノードでタスクを逐次処理する場合と比べて,10台のノードを用いてタスクを並列分散処理した時に処理時間が約1/10となり,約92.46%という高い並列化効率が得られることが判明した.また,タスクを分担する際に,低負荷なノードを選出することによって,高い並列分散処理パフォーマンスを得られることを確認した.