省エネ家電制御システムや高齢者見守り等の生活支援サービスを実現するためには,家庭内における生活行動のリアルタイムな認識が不可欠である. これまで家庭内の行動認識に関する研究は数多く行なわれているが,(1)カメラ等の機器によるプライバシーの侵害,(2)認識できる行動の種類が少ない,(3)認識の精度がよくない,(4)導入及び維持コストが高い,(5)認識までに時間がかかる等の課題が残されている. 本研究の先行研究にあたる上田らの研究では居住者の位置情報と家電の消費電力を用いており,上記5つの課題のうち課題(5)以外の4つの課題はある程度達成されている. しかし,認識に必要な時間は5分となっており,課題(5)については達成されていない. 本研究では,上田らの手法を基に,上記5つの課題を全て解決することを目指した宅内生活行動認識手法を提案する.
課題(5)を解決するためには,(i)消費電力センサのサンプリング周期が長い,(ii)認識までの時間が短くなると認識精度が低下するという2つの問題がある. (i)に関しては,使用する消費電力センサを変更することで解決する. (ii)に関しては,過学習を防ぐため学習モデル作成時に行動ごとの教師データの数を制限する,有用な特徴量のみを選択するといった手法を導入し解決する. さらに,提案手法の実用化,汎用化に向けた拡張として,(1)高齢者見守り等のサービスへの適用を考え,行動の種類数の見直し,(2)一度学習した行動認識モデルを家具配置や家電の種類が異なる家庭にも適用できるようにするための,位置情報の領域情報への変換,消費電力情報の標準化を行う.
提案手法の有用性を評価するため,生活中のセンサデータを記録した. 得られたセンサデータを基に,教師データとテストデータを作成し,機械学習アルゴリズムRandom Forestを用いて1日を除外する交差検定を行った. 結果,データのサンプル長10秒,特徴量として位置情報の中央値と消費電力情報の平均値を用いた場合の16種類の行動の平均認識精度は64.4%,10種類の行動の平均認識精度は74.5%となった. 加えて,教師データのサンプル数に制限を加えた場合の平均認識精度は16種類の行動を対象とした場合2.9%,10種類の行動を対象とした場合1.2%改善され,67.3%,75.7%となった. さらに,特徴量の選定を行った場合の平均認識精度は選定を行う前と比較して,16種類の行動を対象とした場合0.7%,10種類の行動を対象とした場合1.5%改善され,68.0%,77.3%となった. 加えて,異なる環境で学習モデルを構築した際の平均認識精度への影響を調査した.