日常生活における人間関係を抽出するためのBLEを用いたユーザ間距離推定手法

小芝涼太


近年,人々の生活様式や働き方が多様化していくと同時に,LINE Slack 等の,様々なチャットツールが普及し,組織や個人間におけるコミュニケーションの多様化が進んでいる.また,センシングの技術を通して,人間の行動や習慣を把握することで,未来の行動を予測するような研究が盛んに行われている.このことから,普段の生活では無意識に構築される人間関係の可視化が可能になれば,人のコミュニケーションを誘発するようなサービスに応用できると考えられる.例えば,ランチ時間を有効利用したシャッフルランチという制度を導入している企業が登場するなどオフィスの活性化や連携強化の手法として,一緒にランチを取るという行動が注目されている.既存システムでは,システム上でランダムにランチグループが形成される.それによって予期しない出会いが生まれる可能性がある反面,不在者がグループに含まれたり実際にランチに行く時間を別途決定する労力が発生するといった問題がある.以上のことから,円滑なコミュニケーションが可能なグループを形成するには,実際の人間関係を考慮し,コミュニケーションが活発化する可能性が高いグループの推薦が必要である.

本研究では,日常生活の人間関係に基づき,活発なコミュニケーションが生まれるグループの推薦に必要なグループ検出を目的とする.そのため,スマートフォンに搭載された BLE (Bluetooth Low Energy)を用いて,日常生活におけるユーザ間距離を,信号受信強度 RSSI から推定し,日々の交流に基づいたグループ検出手法を提案する.提案するシステムでは,すべての端末が,能動的にパケットをブロードキャストし,周辺の端末に自身の存在を示す.同時に,周辺の信号を常時スキャンする機能も併せ持っている.このときのRSSIに基づいて,端末同士の物理的距離を推定し,グループ検出を行う.しかしながら,提案手法のようなアーキテクチャにより実装されたシステムを常時動作させると,消費電力の影響が大きくなるといった問題が生じる.この問題を解決するため,データの受信頻度を調整することによって,消費電力への影響を低減させる.

提案システムの実現に向けて開発した Android アプリケーションと,そのアプリケーションを用いて計測した RSSI と端末間距離の関係を調査した.結果,端末間の距離が大きくなるほど,RSSI の値は減少することがわかった.次に,提案アプリケーションが端末に与える消費電力への影響を評価した.結果,アイドル状態よりも消費電力は大きくなるが,GPS と併用した時よりも消費電力が実際に小さくなることを確認できた.より消費電力を抑えるために,受信頻度を3 段階(1 分間隔,5 分間隔,10 分間隔)に設定し評価した.結果,1分間隔では,正確にそれぞれのグループが検出されることがわかった.また,5分間隔や10分間隔でも,グループ検出の精度をある程度保てることがわかった.そのため,5 分間隔や10 分間隔での受信頻度に設定することで,消費電力をより抑えることが出来る可能性がわかった.