受動的把持機構と回内外機構を備える装飾義手の開発

神田将輝 (1551037)


前腕切断者が日常的に使用している義手として,装飾義手と電動義手が挙げられる. 平成22年に全国の厚生相談所が判定した装飾義手の処方数は86.3%となっている. 装飾義手は人の手と同様の外観を持ち,軽量で安価なために普及が進んでいる. しかし,把持機能を持たないため,日常生活では不便なことが多い. 一方電動義手は処方数が2.3%と装飾義手と比べ大幅に処方数が少なく,普及が進んでいない. これらの背景から,日常的に使用できる装飾義手が必要であると考えられる.

 そこで本研究では,受動的把持機構と回内外機構を備えた装飾義手を提案する. 提案する装飾義手は,市販の装飾義手の内部骨格を3次元スキャンした3Dモデルを元に設計し,MP関節,PIP関節にトーションバネを用いた受動的把持機構を実装した. これにより,装飾義手の外観を維持したまま日用品などの把持を可能にし,外力に対しても自然な姿勢をとることができる. 手首部分には回内外機構を実装することで,欠損ユーザが一般に困難な回内外動作を可能とした. これにより,ユーザの意図によって把持が行いやすい姿勢や,手を組む,手を膝の上に置いた際などに,手として自然な姿勢をとることができる. 義手の製作には3Dプリンタを活用し,軽量で頑丈な素材(ABS)で義手を製作することにより,手の微妙な形状の再現と機能性を両立しつつ,装飾義手同様の軽量さを実現した. また,日用品の把持実験,前腕切断者による提案する義手による両手動作による評価および主観評価により,義手の有用性を検証した. 実験の結果,様々な形状の物体を把持可能であり,自然な動きで両手動作を行うことができた.主観評価の結果,電動回内外機構が容易に操作ができるという評価を得た.