イヌ―ヒト間のコミュニケーションの解析

大内 里菜 (1551021)


コミュニケーションはヒトを含む生き物が社会生活を送る上で重要な役割を担っている. 同種間のみならず,異種間でのコミュニケーションも知られているが,イヌは進化の過程を通じてヒトとの優れた異種間コミュニケーション能力を獲得したと考えられている. イヌがそのようなコミュニケーション能力を獲得しているにも関わらず,ヒトはしばしばイヌと上手にコミュニケーションが取れない場合があり,それは家庭犬の問題行動や,災害救助犬のパフォーマンスの低下に繋がることがある. これらの問題行動を解決するためには,ヒトがイヌの内的状態を的確に推定することが求められる.必ずしもイヌのふるまいとその内的状態は一対一に対応していないため,その推定は素人には容易ではないが,イヌの専門家は,それまでに培ったイヌに関する知識やイヌとのふれあいから得られる経験のような専門知を用いることで,イヌの内的状態を上手に推定することができる. しかし,その専門知が具体的にどのようなものであるか,未だ科学的に十分に明らかにされていない.

そこで本研究では,イヌのふるまいの情報からイヌの内的状態を推定するための二種類の手法を提案し,調査のため実験を行った. 一つ目の手法では,イヌに取り付けた加速度計から得られた加速度データを用いてイヌの内的状態の推定を試みた. 二つ目の手法では,イヌの内的状態を推定するためにイヌの専門家がイヌ—ヒト間のコミュニケーションの視聴時にどこに着目するかを視線データを計測して調査した.

前者の実験の結果,イヌの個体毎の加速度データを使用した場合,全てのイヌの加速度データを使用した場合における3種の情動状態の識別を行ったところ,それぞれの92%,71%の精度で識別が可能であった. 後者の結果より,イヌの専門家はイヌ—ヒト間のコミュニケーションを視聴している時に独自の視点を持つことが示された. これらの結果から,イヌは情動状態に応じた独自の行動パターンを持つこと,そして専門家はイヌの様子から内的状態に関する情報を読み取ろうとしている可能性があることが示唆された.