災害時に適用可能なインターネットレス通信アプリケーションの提案と実装

松本誠義 (1451100)


近年,十分に普及した無線通信端末として,スマートフォンを用いた災害時通信システムの研究が活発に行われている. これらのシステムは,全利用者の端末に対して必要なアプリケーション(以降,アプリ)がすでにインストールされて いることを前提としているが,災害時に利用可能なほどに普及しているものは存在しない.インターネットが断絶する ような災害時には,被災者はアプリを入手することが出来ない.さらに,災害に備えたアプリ入手手段を用意した場合, 1) アプリ入手 2) 災害時通信アプリによる周囲ノードとの接続処理 というように,被災者に2段階の作業を求めること になり,負担が大きくなるという問題がある.

本発表では,インターネット断絶状況において,アプリをその場で拡散して被災者に与える手法として,Recurshareを提案する. Recurshareでは,最初の配布者の周囲にいる人々にアプリを配布し,それを受け取った人々が更にその周囲の人々に配布することを 繰り返すことで,再帰的にアプリを配布する.そのため,平時におけるRecurshareの導入は,災害時アプリケーションと Recurshareをインストールするだけで完了する.

さらに,接続の手間を最小限に抑えたネットワーク構築手法を提案する. これには,近年登場したBluetooth Low Energy(BLE)を利用する.BLEは親機と子機の役割を持ち, 親と子の端末で接続を行うことで通信を行う.しかし,子機の役割を持っている端末は最新のモデルに限られ, 現行のスマートフォンの多くはBLEの親機の役割しか持たない.本研究では,子機の役割を持つ端末にメッセージ転送の 仕組みを持たせることにより,親機同士の通信を可能にする手法を提案し,2つのアプリケーションに対して実装を行った. 1つめは避難所を想定し,Recurshareによるアプリ拡散の後に,接続した端末同士でチャットを行うことを想定した RecurChatである.2つめは,地すべり検知を目的としたセンサネットワークアプリケーションのDownhillである. スマートフォンを線形的に配置し,BLEネットワーク構築手法を用いて相互接続することにより,麓に設置したサーバに対して センサ値を届けることで地すべりの検知を行う.最後に,それぞれのシステムについて可用性を評価した.