肺野領域を利用した空間正規化によるMR画像からの肝臓領域自動抽出

政木 勇人 (1451096)


肝線維化症などの肝疾患に対するコンピュータによる診断支援システムを構築するためには,前提としてMR画像から肝臓領域が正しく抽出されている必要がある. これまでに報告されている多くのMR画像からの肝臓領域自動抽出の手法は,平均Dice係数値0.9以上の抽出精度を達成している. しかし,抽出対象と同様の撮影装置及び撮影条件のMR画像のデータセットを用いてパラメータの調整が行われており,撮影装置や撮影条件が異なる画像に適用するためには,パラメータの再調整が必要になる問題点がある.

そのため,本研究では自動抽出手法は撮影装置や撮影条件に対して汎用的な手法を構築を目指し,CT画像における統計アトラスを用いた濃淡分布モデル自動推定に基づく手法に着目した. 特長として,推定した濃淡分布モデルを用いて濃淡値を尤度値に変換して抽出処理を行うため,CT画像において造影・非造影などの撮影条件によるパラメータ調整を行うことなく自動抽出を可能としている. ここで,空間正規化は画像の濃淡値に基づき行う必要があるため医用画像撮影装置の種類や撮影条件に依存するが,MAP推定及びSSM当てはめによる抽出処理は尤度値に基づき行われるため汎用的な抽出処理である. ただし,グラフカットによる精密化は濃淡値に基づく処理であり,MR画像にそのまま適用することを考えると,隣接画素の濃淡値の差をコスト値としてエッジを計算するため,濃淡むらによって抽出精度が低下すると考えられる. MR画像に拡張する際には,MR画像特有の濃淡分布むらにより同一組織内で一様な濃淡分布を仮定できない点と空間正規化に骨のCT値を仮定している点の2点が問題となる. よって,一様な濃淡分布及び適切な空間正規化という前提条件が整えば,MR画像に拡張可能と考えられる.

本研究では,この従来法をMR画像用に拡張しMR画像から肝臓領域の自動抽出を行うことを目的とし,濃淡むら補正を追加し,空間正規化をCT画像とMR画像の両方で信号値が低い肺野領域を利用した手法に変更することでMR画像用に拡張する. 本研究の新規点は,CT画像とMR画像の両方で同じ空間正規化を行うことにより,MR画像からの抽出においてもCT画像のデータセットから構築された統計アトラスをそのまま適用することを可能とし,新たな学習データの追加を不要としている点である. 従来法と共通のパラメータ及び学習データを用いた拡張法を造影・ 非造影MR画像に適用し肝臓領域の自動抽出実験を行い,CT画像のパラメータがMR画像にも有用であるか検証を行った. また,非造影MR画像は,位置ずれなしのin-phase画像,out-of-phase画像,water画像,fat画像と呼ばれる4種類の強調パターンの画像組であり抽出精度向上を狙い,これらを組み合わせた場合の抽出精度を調査した.

実験の結果,造影・非造影MR画像でそれぞれ平均Dice係数値0.908±0.073,0.924±0.031の抽出精度を示した. 全組み合わせのなかで最も抽出精度が高かった組み合わせはout-of-phase画像とwater画像の組み合わせで,平均Dice係数値0.925±0.026の抽出精度を示した. これらの結果から,従来法のCT画像から肝臓領域自動抽出を行う際に用いられたパラメータがMR画像でも有効であることが示された. 拡張法は一様な濃淡分布及び適切な空間正規化という前提条件が整えば,MR画像特有のパラメータ調整及び学習データの追加が不要なMR画像からの肝臓領域自動抽出法であることが示唆された.