オープンソースソフトウェアライブラリにおけるバージョン選択の分析

藤野啓輔(1451090)


本論文の目的は,オープンソースソフトウェア(OSS)として公開されているライブラリを利用するユーザが,そのバージョン選択を行う際の指針を示すことである.ライブラリの利用者は常に最新のバージョンを利用すればよいわけではなく,例えば大規模なシステムにおいては高品質さが指標となる.従来研究では,群衆の英知に基づき,利用者の多いバージョンが推薦されているが,大量の利用者が不具合の発覚を境にバージョンダウンする事例もあり,群衆の選択が常に良い選択であるとは言えない.本論文では,新バージョンのリリース直後から安定期にかけて,利用者がどのようにライブラリを選択しているかを調査し,ライブラリの選択指針をより詳細に示す.調査においては,ケーススタディとして三つの著名かつ利用者数の多いロギングライブラリ (Log4j, Slf4j, Commons logging, Logback) の利用状況を分析する.分析の結果,リリース直後は利用者ごとに異なるバージョンを選択しているが,ある時期を境に単一のバージョンが多く利用される傾向が明らかになった.すなわち,利用者のライブラリ選択が収束した後,従来の方針で選択することが良いと考えられる.また,さらなる分析によって,同一のバージョンが選択され始める時期と,不具合修正が収束する時期が同時期であることも明らかとなった.