注視パターンに基づく発達障害者における他者行動の推論モデル

玉田眸 (1451073)


    発達障害とは、生まれつき脳の発達が異なり、学習面や行動面、対人コミュニケーションに困難を抱える障害である。 発達障害には、自閉症スペクトラム症候群や学習障害などいくつかのタイプがあり、1人が複数のタイプを持つ事も 珍しくないため、症状に個人差が大きいことが特徴である。 発達障害、特に自閉症スペクトラムや広汎性発達障害の症状の一つに 「相手の気持ちを読み取る」困難さがある。本研究では、「他者の意図や考えの推論」に注目し、視線データを用いて発達障害者と定型発達者における違い を調べることを目標とする。

    実験として、発達障害と診断された被験者32名と定型発達児20名に対して、2つの動画刺激を与えた。 動画刺激は、ある目的・意図を持ち行動している動作である目的指向行動を対象とする。本研究では「コップにジュースを注ぐ」という目的のもと、 「ジュースをコップに注ぐ」動画刺激と「ジュースをこぼす」動画刺激を用いて、実験を行った。「コップにジュースを注ぐ」という目的は、大人だけでなく 子供にも馴染みがあり、行動を容易に予測できることから採用された。つまり、「ジュースをコップに注ぐ」動画刺激は、被験者の予測と他者の行動が一致する 動画刺激、「ジュースをこぼす」動画刺激は、被験者の予測と他者の行動が不一致となる動画刺激となっている。被験者の予測と他者の行動が不一致なった場合、 被験者は再度「他者の考えを推論」し直す必要がある。この「他者の考えを推論」する際に、参照する情報源の違いを視線データを分析し、定型発達群と発達障害群で調べた。

    すると、定型発達群は他者の行動が予測と反することに気づいた時点で、通常の目標地点(ジュースが注がれるカップ)を見なくなり、他者が操作しているボトルや他者の顔を参照することで 他者の行動を理解しようとするのに対して、発達障害群は、通常の目標地点を意識した注視パターンになることが分かった。