本発表では,慢性腎臓病患者の在宅食事療法における栄養素量の分析結果を示し,長期継続的な実践におけるQOL向上を目的とした動的な献立計画支援手法の評価について説明する.
食事は,生命機能を維持するための栄養学的な役割とともに,社会的,文化的意義を持ち合わせている.ただし,慢性腎臓病患者は食事療法の実践により,日々の食事摂取に制限が課さられる.本研究ではその制限によって生じる二つの問題に焦点を当てている.問題の一つとして,厳しい食事制限による栄養不良の疑いが指摘されてきた.慢性腎臓病の食事療法では複数の栄養素の管理が要求され,複雑なパズルのようなものであるといわれる.その複雑さゆえ,患者が適切な管理を実施できず,栄養不良状態が発生した事例も報告されているが,その実態は明らかとなっていない.二つ目の問題として,厳密な食事制限の実践による精神的ストレスがある.精神的なストレスの要因の一つに,好きなように食べることができないという煩わしさがある.負担軽減のためには,個人的な嗜好だけでなく,冠婚葬祭や社交の場への参加も配慮すべきである. これらの問題に対し,本発表では以下の二つのアプローチについて述べる.
一つ目の問題に対して,我々は腎臓病患者を対象とした市販献立本を用い食事の栄養素量を分析する.その結果,腎臓病の食事療法基準にて基準値が定められている栄養素に関しては概ね適切な管理がなされている一方で,カルシウムやマグネシウムをはじめとする多数の微量栄養素の不足を確認する.加えて,健常人の普段の食事の栄養素量と比較を行い,これらの栄養素の不足が慢性腎臓病の食事特有のものであると明らかにする.
二つ目の問題に対して,複数日での栄養摂取量を対象として食事摂取基準を適用する手法を考案する.食事検索・推薦機能を有する献立計画支援システムを作成し被験者実験を通して本手法を評価する.その結果,提案手法を用いて献立計画を実施した際の満足度が向上する傾向を確認し,食事療法の継続的実践において有効である可能性を示す.