題目多変量解析にもとづいた海馬機能モデル ( HippoAge モデル) によるてんかん患者と健常者の比較

名前 川上陽子(1451036)


 加齢にともなって、脳が萎縮することがよく知られているが、脳の記憶を司る部位である海馬も同様に萎縮することが知られている。対象領域の代謝物質を非侵襲的に測定できる Magnetic Resonance Spectroscopy ( MRS )と、記憶機能を計測できるWechsler Memory Scale - Revised ( WMS-R )をもちいることで脳内の状態を機能の観点から観測できる。本研究では、脳年齢として海馬に着目して、海馬のMRSWMS-Rから海馬年齢( HippoAge )を推定することができないか検討した。これによって予測した年齢が、被験者の実際の年齢より高い場合、それは脳の老化が促進している可能性を示す。また、病気による脳への影響を検知する際に利用できる可能性がある。また、神経疾患の一種であるてんかんは、おもに海馬を起始として起こる。その際、MRS によって測定されうる代謝物質および WMS-Rの違いが健常者とてんかん患者の間でみられる。そのため、海馬環境を反映する HippoAge モデルにおいて、てんかん患者の海馬で起きる異常について観測できるのではないか、またこのHippoAgeをとおして、てんかんの病態の新たな知見が得られるのではないかという仮説を立てた。

 HippoAgeモデル構築にはPartial Least Squares ( PLS ) の手法をもちいた。このモデルの実年齢との差は12.36歳であった。実際に、てんかん患者の場合にHippoAgeは高く推定された。健常者とてんかん患者の判別モデルをPLS-DAによって構築したところ、WMS-Rdelayed recallattention/concentration および choline が判別に重要な指標であることがわかった。この判別モデルと前述した HippoAge モデルをもちいて健常者とてんかん患者の識別の要因を議論した。さらに、この判別モデルと HippoAgeの関係から、HippoAge が高いほどてんかん患者に識別される可能性が高いということがわかった。このことから、HippoAge はてんかん患者と健常者を判別するのに効果的な指標になりうる。加えて、PLS-DAによる全般てんかんと部分てんかんの判別モデルを構築したが、この2つのてんかんの判別は難しいことがわかった。

 以上より、本研究では HippoAgeモデルと判別モデルの構築によっててんかん診断における新たな知見を得ることができた。このHippoAgeは海馬に影響のあるアルツハイマーや統合失調症など他の病気への応用も考えられる。