現地における埋蔵文化財に関する観光向け情報提示手法の検討*

小野 祥 (1051025)


 観光の一つとして歴史的文化財を目的に各地を求めるものがある.インターネット越しに,テキストだけでなく写真や映像,音声など複数メディアを介してそれらの関連情報を得ることは容易になっている一方で,現地で直接ものを見ることを重視する傾向は未だにある.しかしながら,歴史的な文化財が一般に公開されている中で,「時代を経て破損や紛失,経年劣化などにより本来の姿が保たれていない」「別の場所に移動されている」「発掘調査された後に再び埋め立てられている」などの理由より現地で直接そのものを見ることができないことがある.これらの文化財に対しては,看板やパンフレットなどによって鑑賞の補助が行われているが,現地まで出向いた観光者にとっては満足度が高いとは言い難い.近年では,スマートフォンやタブレット端末の普及から電子情報を観光者に与えることで観光の質を上げる試みが行われている.例えば,観光先現地にある直接見ることのできない文化財に関しては,写真や三次元コンピュータグラフィックスなどのデータを提供することでその対象に対する理解を補助している.また,観光者自身の視点で埋められた文化財を直視するような表現についても研究されており,主要技術として拡張現実感が用いられている.拡張現実感とはコンピュータで生成された三次元コンピュータグラフィックスをあたかも実世界上に存在するかのように重畳表示させる情報提示技術である.このように直接見ることのできないものを見せる技術は存在するが,実際の観光地での観光体験において,如何に観光体験を補助するのかについてはあまり明らかにされていない.本研究では,写真・三次元コンピュータグラフィックス・拡張現実感表現の三つを補助手法として,実際の観光地で用いる際にどの手法がどのような特性を有するのかについてユーザの観点での検証を行った.実際に観光地として知られている東大寺にて,埋蔵文化財とされる遺構の一つである僧坊跡を対象に70名規模の被験者実験を実施した.地中に埋まった僧坊跡を地上から見下ろす状況で上記三つの補助手法を比較した.その結果から,観光者の知識や見聞によって,観光としての興味の対象が異なる傾向があった.また,現地で関連情報を見れることへの需要が比較的高いことがわかった.この結果に対して,対象に関する知識がある被験者ほど,対象物体の詳細を知りたいという要求があることから,興味の変容に対する拡張現実感表現の工夫について補助線を加える手法を考案した.