EEGを用いたコミュニケーション不全要因の分析及び検出

笹倉隆史(1351049)


コミュニケーションには,情報伝達の失敗を引き起こす様々な要因が生じうる.特に,システムを利用する場合にはシステムの出力誤りもコミュニケーション不全を引き起こす要因となる.情報伝達を成立させるには,こうした要因が生じたときに訂正や補足発話を行うなどの処置が求められるが,そのためにはコミュニケーション不全要因の出現を検知し,話者に通知することが必要となる.従って,コミュニケーション及びその支援システムの研究を進める上でその不全の自動検出が不可欠である.そこで,本研究では,聞き手側の生体情報からコミュニケーション不全要因を検出することを目的とする.生体情報には様々なものがあるが,情報量の多さや時間解像度の高さなどの特徴を持つ脳波(Electroencephalogram: EEG)に着目し,脳波データから,それがコミュニケーション不全要因知覚時のものか否かを識別する.特に,本研究では不全要因を①システム出力が誤りを含んでいた場合と②システム出力は正しいが,コミュニケーションが成立しない場合の2つの場面に分けて考える.そのうち,前者の例として削除誤りを,後者の例として未知語の出現を対象とし,それぞれの場面のEEGデータを分析し,コミュニケーション不全要因の検出を試みた.実験の結果,削除誤り時のERP(Event-Related brain Potential)波形から,意味理解の成否に関連してN400とP600成分に差異が確認され,構築した識別器では,チャンスレートよりも有意に高い識別精度を示した.また,未知語知覚の脳波実験では,ERP成分としては未知語知覚時にN400が,既知語知覚時にはP600の振幅が有意に増大し,構築した識別器では,チャンスレートよりも有意に高い識別精度を示した.両実験から,コミュニケーション不全要因を知覚したときのEEG信号に差異が生じることが確認された.