マウス頭頂皮質の音源方位の神経情報表現

白石 諒(1151055)


ヒトや動物は、視覚や聴覚などの感覚から自分のまわりの状況を把握し、その上で適切な運動を生成することができる。 たとえば、目の前のコップを手に取るという動作はとても簡単なことだが、この動作のために脳は何をしているだろうか。 まず網膜上のある位置にコップが映ったという感覚情報から、適切な座標変換処理を施して自分とコップの空間的な位置関係を把握しなければならない。そして、そのコップの位置にむけて腕の運動を精度よく制御しなければならない。 本研究で扱う頭頂皮質は、このような空間的な情報処理や感覚と運動の協調に関わっていると考えられている。

これまで、fMRI(機能的磁気共鳴画像)や微小電極での電気生理によって、ヒトやサル、ラットの頭頂皮質の神経活動が調べられてきた。 その結果から、頭頂皮質は感覚と運動の両方に関わり、特にその空間的な位置の情報処理に関わると考えられている。しかし、その具体的な機能については不明な点も多い。 そこで、マウスでの光学的な神経活動記録法(二光子励起顕微鏡でのin vivo カルシウムイメージング)で、その機能をより詳しく調べることができる。 この方法では、マウスが音を聴いたり運動したりする課題中に、その脳内を神経細胞ひとつひとつが見える解像度で撮影する。そして、蛍光タンパク質の光の強さで、多くの神経細胞の活動を同時に観察できる。 さらに、マウスでは分子生物学の遺伝子組み換え技術の成果から、神経細胞や受容体を遺伝的に操作した発展的研究が期待できる。

マウスの課題中の光学的神経活動記録はまだ実施例が少なく、微小電極による電気生理を含めても、マウスの課題中の神経活動計測が行われた例は少ない。 とりわけ、マウスの頭頂皮質の神経活動はほとんど知られていない。 マウス頭頂皮質が空間的な情報の処理に関わるかもわかっていない。

本研究ではマウス頭頂皮質の音の空間情報処理への関わりを調べることを目的とし、方位の異なる音刺激への神経活動を調べた。 本発表では、今回の研究で行った2つの実験とその結果について紹介する。 1つ目の実験では、マウスのまわりの12方向から音刺激を与えたときの頭頂皮質の神経活動を調べた。 2つ目の実験では、左右2方向からの音刺激と報酬(スクロース水)を用いて、音と報酬を関連づけた古典的条件付けでの頭頂皮質の神経活動を調べた。 実験中には、二光子励起顕微鏡を用いたカルシウムイメージングで神経活動を記録した。 その結果、いずれの実験でも音刺激の方位選択的に活動する神経細胞が確認できた。 古典的条件付け実験では、報酬との関連付けの有無によらずにほぼ同じ割合の音方位選択的神経細胞が確認できた。 これらの結果は、マウス頭頂皮質が音の空間的な情報処理に関わることを示唆する。