頭部伝達関数を利用した画像トラッキング併用型の両耳補聴システムに関する研究

吉江 孝太郎 (1251115)


本発表では,両耳補聴器や遠隔臨場感システムなど,両耳で音を聴取するシステム (両耳補聴システム) において,雑音抑圧処理を行う際に, 音源の定位性を維持したまま高音質な雑音抑圧を可能とする手法を提案する. 両耳補聴器などの両耳で聴取を行うシステムにおいて,雑音処理を行った後も音の空間情報が保持されることが望ましい. 先行研究として,音源の定位性を保持した状態で雑音抑圧を行う手法である, 独立成分分析 (ICA) を用いた雑音推定に基づく定位保持型 MMSE-STSA 推定法についてを説明する. この手法は左右チャネルで合計の平均二乗誤差が最小となる最適両耳共通スペクトルゲインを近似的に推定を行うものである. しかし,従来法で求められる両耳共通スペクトルゲインは,左右各チャネルにおける 単一チャネル MMSE-STSA 推定法の結果を利用して計算された近似値であり,両耳情報は使用されておらず,更なる性能の改善が望まれていた. そこで,提案手法として,単一チャネル MMSE-STSA 推定法に代わり,頭部伝達関数 (HRTF) 切り替えを併用する 定位保持型多チャネル MMSE-STSA 推定法の説明を行う. 提案手法では,スペクトルゲインの推定に左右の角度ごとに用意された HRTF の情報を使用する. 従来法と提案手法の 音声歪み の値を同一にした条件の下で, NRR の値を比較する評価実験を行う. 加えて,外部カメラによる画像トラッキングの使用により,マルチモーダルに HRTF の切り替えを行い, 従来法より正確な推定を行うことを目的とした手法を提案し,評価実験によりその有効性を確認する.