マカクザルにおける統計的単語分割に関する神経相関の特定
田村潤 (1251062)
言語の獲得という分野において,連続した音声中から単語の分節位置を獲得するというタスクは重要な役割を持つ.しかしながら,連続音声には単語間での明確な区切りが存在しない場合もあり,このタスクは困難なものであると予想される.それにも関わらず,ヒトは適切な分節位置を特定することができる.これは,連続音声内における遷移確率の違いを利用して分節位置を特定しているとされ,生後8ヶ月の乳児でさえも遷移確率の高い音列と低い音列の区別が可能であるという報告がされている.また,その学習に関連する事象関連電位などの脳活動についても報告もなされている.しかしこれらの報告は全てヒトを対象とした実験であり,他の動物についてはそのような分節化およびそれに関する神経相関についての報告が乏しく,広範囲・多計測点での脳活動計測に基づく報告はない.
そこで本研究では,進化の過程上ヒトと比較的近縁であるマカクザルを対象として実験を行った.音素間の遷移確率が異なるような人工言語をマカクザルに提示し,その際の皮質脳波を計測した.計測したデータから人工言語での分節化に関する情報を機械学習の手法によって復号化することにより,分節化に関する神経相関の有無の検証,およびその特定を試みた.同時に,分節化の処理が脳内でどのように表現されているのか調査を行った.本研究の結果として,分節化に関する情報の復号化が可能であり,マカクザルにおいても音間の遷移確率に基づいた分節化を可能とするメカニズムが脳に備わっていることが示唆された.また,分節化に関する情報はマカクザルにおける高次の聴覚野で処理されている可能性が高いことを示した.