本研究では,農業用地においてある周期で環境情報を取得するWSNを想定し,太陽光発電による充電が可能なモバイルノードが対象領域内を効率よく被覆するWSNを動的に構築する手法を提案する. ネットワークは作物の植え付けから収穫までの期間に渡って稼働しなければならず,それを達成するためのノード設置のコストを最小限に抑えるため,提案手法では,対象領域の全被覆と指定した期間T以上のネットワーク寿命を満たすために必要なモバイルノード数を最少化することを目的とする.
提案手法では,各ノードの現在の位置と日時,作物により生成される日陰領域からセンシングを行う各地点の発電量を予測することによって,フィールドを被覆し,かつ,ノードの電池が枯渇しないよう各ノードの移動経路を決定する. そして,対象領域の全被覆を一定期間T以上保持することができる最少のノード数を求める. 提案手法における課題は,(1)発電量をどのように予測するか,(2)ノードの移動方法をどのように決定するか,(3)どのようにスケジュールの計算を行うか,の3点である. (1)の課題を解決するために,作物の成長モデルを導入し,対象領域内の日陰領域を予測する. (2)の課題を解決するために,フィールドを一つのセンサノードで被覆可能なグリッドに分割し,各センシング周期において各グリッドにセンサノードが一つ以上存在する瞬間があり,かつ,周期終了時の全ノードの電池残量の最小値ができるだけ最大となるように 移動スケジュールを決定する. (3)の課題を解決するために,複数の隣接グリッドからなる小領域を定義し,小領域ごとに選出されたリーダノードがその小領域内の他のノードから情報を集め小領域内のすべてのグリッドの被覆を完成させる移動スケジューリングを計算する.
ソーラパネルを用いた充電機構および移動機構を装備したノードを制作し,発電量と電力消費量を計測する予備実験を行った.また,予備実験の結果を用いて,農地においてWSNを運用するシミュレーションを行った.その結果,提案手法では従来手法に比べ指定した期間においてWSNを稼働させるためのノード数を4%抑えることが,ネットワーク寿命を10%延長することができた.