そのような無線センサネットワークに用いられる端末には、小型、低消費電力であり、かつ端末間通信における高い信頼性が要求される。 しかし、無線通信においては見通し伝搬路を確保できないことも多く、マルチパスフェージング現象、さらに端末が移動するような環境においてはドップラー効果が発生し、受信特性が劣化するという課題を抱えている。これらを克服するためにダイバーシチ技術が用いられ、効果的に所望信号を受信し、通信品質を改善する方法が検討されてきた。しかしながら、多くの場合、ダイバーシチ受信を実現するためには、既存システムの大幅な変更やハードウェア規模の大型化が必要となり、小型・低消費電力のニーズに答えることが困難であった。
これらの問題を解決する手法として、IEEE802.15.4のようなスペクトル拡散方式を取り入れている環境において、受信アンテナにESPAR(Electronically Steerable Passive Array Radiator)アンテナを適用する手法が提案されている。ESPARアンテナは、八木・宇田アンテナのように各素子間に働く電磁結合を利用したフェーズドアレイアンテナであり、電気的な指向性制御が可能である。
具体的には、寄生素子に終端されている可変容量ダイオード(バリキャップダイオード、バラクタ)の値を変化させることで、アンテナ周辺に生じる磁界が変化し指向性が可変となる。先行研究では2素子ESPARアンテナにおける電磁結合の影響を簡易的にモデル化し、その指向性を高速に変化させて、複雑な信号処理を行うことなく単一のRF受信系によるダイバーシチ効果を実現した。
本研究では、さらなる受信品質の向上を目指して、ESPARアンテナの素子数を拡張した。そしてその追加する素子にどのような制御信号を印加するのが最適か、まずはじめに3素子の場合で検討してから多素子へと議論を発展させた。そのシミュレーション結果について示す。また、実際のアンテナ構造をシミュレーションによって再現し、素子のサイズおよび配置によって生じる素子間結合を考慮した場合の結果についても言及する。