現在、遺伝子の不活性化の方法として、遺伝子ノックアウトやRNAiなど様々な手法がある。遺伝子ノックアウトでは、ある生物の標的遺伝子を機能欠損型遺伝子に組み替えることにより、標的遺伝子の機能を欠失させることができる。またRNAiでは、二本鎖RNAと相補的な塩基配列を持つRNAが分解される現象を利用し、人工的に二本鎖RNAを導入することにより、任意の遺伝子の発現を抑制することができる。
しかし、それら手法は、一個体や細胞集団に対して用いられる手法であり、細胞集団中の任意の細胞に対して遺伝子を不活性化することはできない。細胞のダイナミクスや遺伝子の働きを解析するためにも、より選択性の高い単一細胞レベルでの遺伝子の不活性化法が必要であると考えられる。
本研究では、任意の一細胞の遺伝子不活性法を実現することを目的 とし、蛍光分子を励起した際に発生する活性酸素を利用して、細胞中に取り込ませたDNA‐蛍光分子複合体に光照射することで遺伝子を不活性化する手法を考案した。ここで利用する活性酸素は、ヒドロキシルラジカルや一重項酸素など活性酸素種の中で最も反応性が高く、DNAを酸化させて損傷させる性質を持つものである。この手法は、蛍光分子を励起する際に、組織中の透過率の高い近赤外光を用いた二光子励起現象を利用することで、遺伝子の不活性化領域を単一細胞レベルで限定できる方法となっている。
本研究では、蛍光分子syto13を励起させた際に発生した活性酸素によるDNAの破壊を確認し、ラスタスキャニングによる細胞への近赤外光照射系を開発した。本手法を発展させることにより、より自由度の高い遺伝子操作が実現できれば、遺伝子研究のみならず、医療のさらなる発展に貢献できることが期待される。