二光子顕微鏡へのKTN光スキャナー導入の検討

神垣 宇哉 (1151138)


二光子顕微鏡は厚みのある試料でもスライスせずに断層画像を観察することが可能な装置である. 特に,生きた状態の脳の活動を観察できるため,脳神経科学分野において必要不可欠なツールとなっている. 二光子顕微鏡では,従来手法である共焦点顕微鏡に比べてより分厚いサンプルを観察できる利点があり, 近年は生体組織サンプルの表面からの深さ1000 μmまでを高感度, 高S/N比で撮像が可能になってきている. マウスの脳灰白質の細胞体から頂上樹状突起までがおおよそ脳表層から深さ1000 μmであるので, 二光子顕微鏡を利用した脳組織の形態観察, そして神経細胞同士の接続を観察しようとする研究が盛んに行われている.

一方で, より内部の小脳などを生きた状態で観察したいといったニーズも存在する. しかしながら,二光子顕微鏡はスキャニングユニットにより焦点位置を水平方向に移動させ画像を作成する必要があるため, 一般的な光学顕微鏡に比べ装置が複雑で大型になるという欠点がある. 一方で, より内部の小脳などを生きた状態で観察したいといったニーズも存在する. 従来の二光子顕微鏡では生体の最も外側からしかアクセスできなかったので, こういった観察は不可能である.より小型で, 内視鏡のような使い方のできる二光子顕微鏡が実現すれば in vivo観察の幅は大きく広がると考えられる. しかし, 現在二光子顕微鏡へ広く用いられているガルバノスキャナーでは小型な顕微鏡ユニットを構築する事は難しい.

そこで, 本研究では,新しいスキャナーとして注目されているKTN光スキャナーを二光子顕微鏡へ適応出来るかについて検討を行った. このスキャナーはKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)(KTa1-xNbxO3)結晶にかける電圧を変化させることで 光路を変化させ二次元方向へのスキャニングを可能にする小型なデバイスである. 本研究では, KTN光スキャナーを組み込んだ試作光学系を作製し,性能確認実験を行った. 実験では, フェムト秒パルスレーザーを導入して, 同装置において二光子励起によるサンプルの蛍光を観察することができ, 観察に十分な励起効率を確保できる事を確認した. この結果により, KTN光スキャナーが二光子顕微鏡のスキャニングユニットとして利用可能なことを実証した. 今後KTN光スキャナーを用いた, より小型で多様な観察法が可能な二光子顕微鏡が開発されることが期待される.