Arabidopsis thalianaにおけるコドン使用バイアスの役割りの解明
大井学 (1151136)
遺伝子発現における翻訳過程ではコドンとアミノ酸は多対一の関係にあり、このような複数のコドンを同義コドンと呼ぶ。原核生物や酵母などの下等真核生物において、同義コドンの選択傾向は遺伝子間で共通しており、主にゲノム全体のG+C含有率に影響を受ける。一方、高等真核生物では同一生物種の遺伝子間でG+C含有率が異なり、同義コドンの選択傾向も異なっている。高等真核生物のコドン選択の多様性は、組織による遺伝子発現の差や、多様な遺伝子機能、複雑な遺伝情報の制御機構に起因する。特に、生存戦略に合わせて多様な二次代謝をおこなう植物では、同義コドンの使用頻度はその遺伝子が関係する代謝に依存することが予期される。そこで本研究では、植物のコドン使用の偏りが持つ役割を明らかにすることを目的に、植物のモデル生物であるArabidopsis thalianaのコドン使用に影響を与える要因について多変量解析の手法から推定を行った。TAIR(The Arabidopsis Information Resource)に登録されている全CDS(coding sequence)の同義コドン使用頻度を算出し、主成分分析を行った。その結果、第一主成分はタンパク質への翻訳効率が最も良い最適なコドンと正の相関があることが確認できた。そこで、”Arabidopsis Gene Classifier”の遺伝子の機能分類を用いて第一主成分における各機能分類に属す遺伝子の分布を観察したところ、生命維持に欠かせない一次代謝に関わる遺伝子群と二次代謝に関わる遺伝子群について異なった傾向が見られた。特に、大量の発現がみられるリボソーム遺伝子と大量の代謝産物を生産する二次代謝関連遺伝子が同じ方向に分布していた。これは代謝においてtRNAに適合させたコドン選択を行うことでタンパク質の生産効率を調整し、タンパク質生産を制御している可能性を示している。