新生児心エコー画像に基づく先天性心疾患の三次元モデル構築支援システムの開発

益田 祐次(1151098)


近年, 心エコーが臨床で広く用いられ, 患者の診断と正確な病態把握に大きな役割を果たしている. 心エコーは被曝が無く非侵襲的で繰り返し施行でき, 実時間で観察できるため, 新生児の先天性心疾患の診断においては第一選択となっており, CT検査を行わずに心エコー検査のみで診断し手術を行うケースが大半となっている. 国立循環器病研究センターでは, 先天性心疾患が疑われる新生児に対して横断面連続スキャン法による心エコー遠隔診断が行われている. しかし, 心エコー動画像から心臓の三次元構造を把握するには専門的な知識や経験が必要である. 現状は, 専門医が治療に携わる他の医療スタッフ(例えば実際に執刀する外科医)に対して, 二次元のイラストやシェーマを用いて病態を説明しているが, 多大な労力と時間を要しており, 十分な共通認識を得ることが非常に困難であるという問題がある.

本研究では, 専門医が心エコー動画像から診断した先天性心疾患の病態を大血管と心腔(心房・心室)までを含めて表現することを目指し, 心エコー動画像を参照しながら予め用意した三次元テンプレートモデルをインタラクティブに編集することで, 患者固有の三次元心臓モデルを構築するシステムの開発を目的とする. 両大血管右室起始症をはじめとする心腔と血管の接続関係や位置関係が重要な病態を表現するために, 心腔と血管とのトポロジー編集や心腔の形状編集手法およびインタフェースを提案する. トポロジー・形状編集をインタラクティブに行うために, 球座標系を用いて心腔をモデリングする. 発表ではトポロジー編集や形状編集を動画を用いて発表を行う. 心腔をモデリングすることにより, データ構造としてスケルトンを用いた血管モデルだけでは表現しきれなかった病態, 特に心腔と血管の接続関係や位置関係が重要な病態や中隔欠損などの心腔病態が三次元的に可視化できる. また, 正常な心臓の心腔位置や構造が保たれていることを前提とし, 三次元モデルを横断する操作平面を用いた中隔欠損の編集手法およびインタフェースも提案する. 二次元の操作平面を用いることにより, 三次元モデルの編集を可視化しながら操作することが可能となる.

モデル構築実験を実施し, トポロジー編集が短時間で簡便な操作で行え, 両大血管右室起始症や心室中隔欠損などの先天性心疾患の病態が表現されていることを確認した. その結果, 三次元病態モデルを簡便に構築し, 医療スタッフの間で情報の共有を促進することが期待される. 提案したシステムが臨床で活用されることを期待する.