拡張現実感による文化財観賞のための仮想物体提示方法に関する検討
寺脇 温晃 (1151070)
博物館などの施設において,様々な歴史的文化財が一般に公開されているが,
これらの文化財の中には破損や紛失などによりオリジナルの外観が保たれていないものが多数存在する.
また,歴史的な遺構については,発掘調査終了後に埋め戻されることが多く,
埋戻し後は発掘現場において遺構を確認することはできない.
これらの観賞することが不可能な文化財に対して,
近年では情報技術の発達により,
現実環境に対して仮想環境を重畳表示する拡張現実感技術(AR)を用いて,
歴史体験の質を向上する試みが成されている.
そのようなARによる歴史体験の質の向上を行う場合には様々な要素が考えられるが,
表示される仮想物体の位置合わせや奥行き関係の整合性は,
拡張現実感による歴史体験を実現する際にユーザに与える臨場感に強く影響するため,
特に重要であると考えられる.
しかしながら従来の研究では,
仮想物体の位置合わせや奥行き関係の整合性と歴史体験の因果関係については,
殆ど検証がなされていない.
そこで本発表では,位置合わせと奥行き関係の整合性の二要素に関して適切なARの実現方法について検証を行った結果を報告する.
ARにおける仮想物体の位置合わせに関しては,
これまでにユーザ視点でのアプリケーションの作成は殆どされていない.
そのため本発表では,ユーザ視点において観賞という目的に適切な位置合わせ手法についての検証と結果を報告する.
また,奥行き関係の整合性については,
これまでに遮蔽物と被遮蔽物の前後関係に矛盾が生じる問題を画像合成による透過表現によって軽減する手法が提案されているが,
それらは作業支援などへの応用を想定しており,
文化財を観賞する場合に適切であるかは明らかになっていない.
そこで,拡張現実感による遮蔽物の透過表現の違いが,文化財の観賞や体験の質の向上にどのように影響するのかを明らかにし,
文化財の観賞に適切な表現方法を提案する.
最後に,得られた知見に基づくシステムを試作し被験者実験を通して,
ARを用いた歴史体験システムの有用性について検証を行った結果を報告する.