加藤大陽の発表

加藤大陽 (1151038)


脳は視覚刺激に対応した運動を反射的に生成することができる.例えば車の運転においてブレーキを素早く踏む行動を行う場合,視覚刺激を知覚してから運動開始までの潜時は,文脈や環境情報に依存して状況ごとに変化する.この運動や潜時のばらつきの存在は,脳における反射的な視覚運動変換が,視覚刺激と運動が一対一に対応する確定的な写像によって構成されているのではなく,視覚や感覚情報の履歴によって影響を受ける脳の内部状態に依存した確率的な関数によって実現されていることを意味している.このとき,将来の事象を予見させる環境情報やその不確かさは,どのように将来起こる事象に対する確証を脳内に蓄積し,視覚運動変換の形成に影響を与えるのだろうか.本研究では,視覚運動変換を決定する潜在変数の動的変化が,頭皮上の電位変化(EEG)として観測できることを仮定し,観測した電位変化から将来に生じる事象に対して生成される運動を予測することによって,潜在変数の脳内表現を明らかにすることを目的とする.そのための視覚運動実験として,求められる変換が最も単純な課題であるGo/No-Go課題を採用し,No-Go刺激に対する二つの運動(押さない:成功,押す:不成功)の生成確率と行動の潜時が,Go/No-Go刺激より前に与えられる手がかり情報によって,どのように変化するかを調べた.その結果,与えられる手がかり刺激の不確かさに従って,No-Go刺激に対する成功確率と潜時が変化することが分かった.さらに,この際計測したEEG信号から,No-Go刺激に対する二つの行動(成功,失敗)を予測する頭皮上電位のトポグラフィを描くと共に,EEGと潜時との相関を確認した.これらの結果は,No-Go刺激に対する運動の生成を決定する潜在変数が,手がかり刺激の不確実性を表現しながら発展し,脳活動の時空間マップを変化させることを意味している.