非熟練農作業者を対象とした病虫害発見支援システムに用いる葉個体識別技術の提案

奥村 知樹(1151030)


本研究では、非熟練農業従事者に対して、膨大な数の葉の経時的変化の知覚を支援し、病害虫の影響を早期に発見して、安定な農業生産を支援する「見比べによる病虫害発見支援システム」を提案した。

日本の農業では、高齢者の引退に伴い失われつつある経験知を継承するため、新規参入の促進が急務となっている。新規参入者にとって大きな課題となる病虫害防除に対する支援が必要であるが、効果的な病虫害防除に重要な病徴の早期発見を実現するためには、圃場全体の葉を経時的に観察できる仕組みが必要である。しかし圃場には膨大な枚数の葉が存在するため、すべての葉を観察することは容易ではない。そこで本研究では、膨大な葉の経時的観察を半自動化するシステムの実現を目指した。

「見比べによる病虫害発見支援システム」では、データベースに存在する過去に撮影された葉画像と現在の葉を見比べることで、葉の経時的な観察を行う。データベースに蓄積された過去の葉画像の検索方法としては、以下のような2段階での検索方法を考案した。1段階目として、RTK-GPSによる位置情報を用いて、検索対象を撮影地点から半径1 mの円の内部に存在する100枚程度の葉に限定した。2段階目としてこの100枚程度の葉画像から、画像検索によって同一個体の葉画像を検索した。また本システムでは、農作業者の負担を軽減するため、葉の撮影にはウエアラブルカメラを用い、検索結果の表示にはヘッドマウントディスプレイを使用した。

葉の画像検索処理では、画像上の特徴を用いて葉の個体識別を行う必要があった。そこで本研究では、このような問題を葉画像の個体識別問題と名付け、その解決を試みた。葉は成長によって形状・大きさが変化するうえ、丸まりによって周辺部の欠損も頻発する。また、「見比べによる病虫害発見支援システム」ではウエアラブルカメラによる撮影を想定するため、葉の歪みやスケール変化も起こりうる。そこで、これらの変化にロバストな葉画像の識別手法として、主脈上に存在する一次側脈の分岐点のパターンを利用した葉の個体識別アルゴリズムを考案した。

評価実験の結果、提案アルゴリズムは80%以上の正確さで葉画像の検索に成功した。また提案アルゴリズムは、標準的な使用環境において葉の撮影から結果の表示までを約1秒で完了した。

本発表では、「見比べによる病虫害発見支援システム」および「葉画像の個体識別アルゴリズム」の詳細を説明し、「葉画像の個体識別アルゴリズム」の評価実験の結果について述べる。