異なるアプリケーションから柔軟に利用可能な情報家電の遠隔制御・監視ミドルウェアの提案

大野 淳司 (1151026)


近年,ユビキタスネットワーク社会に向けた環境整備が進んでおり,それに伴 い,インターネットに接続し遠隔から制御・監視ができるデバイスやシステムの 製品開発が盛んに行われている.しかし,これらのデバイスはネットワーク越し に操作できる範囲が限定されていたり,操作のためのインタフェースがそれぞれ 異なっており,ユーザは操作したいデバイス毎にアプリケーションを切り替える 必要がある.さらに,情報家電を利用した見守りなどのアプリケーションも提案 されているが,他のアプリケーションとの同時使用が考慮されていないため,他 のアプリケーションが同時に家電にアクセスする可能性がある場合,動作の不具 合や導入コストの増大などの問題が発生する恐れがある.

本研究では,様々なアプリケーションへの統一的なインタフェースを提供する ことを目的に,ホームネットワークに接続された情報家電やセンサを様々なアプ リケーション層ネットワークを介して容易に制御・監視するミドルウェアを提案す る.本ミドルウェアでは,多種多様なデバイスに対応するために,ホームネット ワークで利用されている各種プロトコル(UPnP, DLNA, ECHONET,IrDA)と のゲートウェイ機能を実現する.また,多種多様なアプリケーションに対応する ために,本ミドルウェアの外部との通信をインターネット上で利用できるアプリ ケーション層の通信基盤を介したテキストベースの独自言語に基づいた通信プロ トコルに統一する.このテキストベースの独自言語によって,ホームネットワー ク上の全てのデバイスの操作とセンサデータの取得を外部から容易かつ柔軟に実 行できるようにする.本ミドルウェアは,想定する利用シナリオから,(i) 基本 的な遠隔制御・監視に必要な,デバイスを指定してコマンドを送る機能や状態等 を取得する機能,(ii) 見守り等のリアルタイムアプリケーションで必要な,条件 を設定することによりプッシュ型で情報を取得する機能,(iii) ビッグデータ収集 に必要な,指定したデータをホームネットワーク内で統計処理した後に取得する 機能,を備えている.このうち,遠隔制御にあたっては,制御を行うユーザや操 作内容によっては,安全面において注意が必要な場合が存在する.提案手法では, このような場合に対応するために一旦操作を保留して許可を求め,許可を得た場 合のみ操作を実行するモデレート機能を備えている.また,センサデータの提供 にあたっては,センサデータの値やデバイスの使用ログからプライバシ情報の漏 洩が懸念される.そのため,提案手法では提供するデータにk 匿名化を施す事に より,これを防ぐ.

提案手法の汎用性や有用性を評価するため,提案手法に基づいたミドルウェア を実装し,応答性能の評価実験及び3 種類のミドルウェア利用シナリオに基づい たアプリケーション開発実験を行った.その結果,レスポンスタイムは,外部か らのコマンド実行の時は最大でも1692 ms,内部の状態変化によるコマンド実行 の時は最大でも3107 ms となり,共に実運用に十分耐えうる応答性能を持つこと が分かった.また,アプリケーション開発コストは最大で開発時間が52分,ソー スコードの行数が35行となり,十分少ないコストで様々なアプリケーションへの 応用が可能であることが分かった.