成長円錐誘導時に膜電位を制御する分子システムの同定
山田 達也 (1051204)
成長円錐は,発生および再生における神経細胞間の配線において,神経軸索を誘導する役割を担う.成長円錐誘導には,細胞外の誘導因子や細胞内のサイクリックヌクレオチドが関わっており,多くの生化学的実験により解明が進められている.これに対し,Nishiyama らは,成長円錐の誘導方向が膜電位変化によって決定されていることを実験により示した.しかし,細胞内シグナル分子と成長円錐膜電位の制御をつなぐ具体的な分子システムについてはよくわかっていない.本研究では,生化学反応方程式とベイズ推定を用い,成長円錐膜電位の観測データから成長円錐誘導時に膜電位を制御する分子システムの同定を行った.その結果,未知の分子間作用として,Protein Kinase G (PKG) から Cl- チャネル (ClC) へ抑制が存在することが示唆された.本研究で推定した分子システムのモデルは,Nishiyama らの他の実験データをよく予測できることから,その妥当性が確認された.このような異なるモダリティー(膜電位)からの分子システム同定は,成長円錐のように細胞が弱く観測が困難な系に対する研究のアプローチとして重要になる.