定位保持型一般化 MMSE-STSA 推定法を用いた両耳補聴システムに関する研究

脇坂 龍 (1051130)


近年,デジタル信号処理の導入により,様々な機能を持ったデジタル補聴器が開発されている.デジタル補聴器における代表的な機能の 1 つとして,雑音抑圧機能がある.これは,補聴器により音を増幅する際に,目的音とともに周囲の雑音まで増幅してしまうことで,増幅された雑音が目的音の聞き取りの妨げとなることを防ぐためのものである.また,音の聞き分けなど人間が本来持つ両耳聴覚機能などの観点から,両耳で補聴器を利用する両耳補聴器が注目されている.人間は両耳聴による音の聞き分けなどを行う際に,音の到来方向などの情報を利用していると考えられており,両耳補聴器においても雑音抑圧処理の前後における音源の定位性保持が望まれる.そのため,両耳補聴器のための雑音抑圧技術として,雑音抑圧処理後も音源の定位性を保持する様々な手法が提案されている.

先行研究において,両耳補聴器のための雑音抑圧手法として,ICA による雑音推定を用いた定位保持型 MMSE-STSA 推定法が提案されている.この手法は,ICA により動的に推定された雑音を用いて,左右の耳で個別に単一チャネル MMSE-STSA 推定法を行い,各チャネルにおけるスペクトルゲインから近似的に求められた,両耳での最適な共通スペクトルゲインを利用して雑音抑圧を行うことで,雑音抑圧処理前後における,音源の定位性を保持しつつ精度の高い雑音抑圧を行う手法である.各チャネルにおける単一チャネル MMSE-STSA 推定法の結果から,最適両耳共通スペクトルゲインを推定する従来法に対して,多チャネル MMSE-STSA 推定法を利用して最適両耳共通スペクトルゲインを求める手法も存在する.この手法では,両耳情報として頭部伝達関数の情報を利用した多チャネル MMSE-STSA 推定法の結果より,最適両耳共通スペクトルゲインを求めることで,従来法よりも高精度な雑音抑圧を実現することが可能である.しかし,頭部伝達関数の情報は基本的に事前には未知の情報であり,観測信号から推定することも困難であるため,実環境において,多チャネル MMSE-STSA 推定法を利用することは実用面において問題がある.

そこで,本発表では,ブラインドに推定可能な両耳情報として,頭部回折などによって発生する両耳間での音声信号分布の違いに着目する.具体的には,一般化された音声の統計モデルを用いた一般化 MMSE-STSA 推定法を利用することで,左右それぞれのチャネルにおいて最適な音声統計モデルを適用し,頭部回折などによって発生した左右間での音声信号分布の違いを反映させる手法を提案する.