NAIST-IS-MT1051109: Miyazaki Ryoichi

ミュージカルノイズフリー雑音抑圧とブラインド信号抽出手法への拡張

宮﨑亮一 (1051109)

本発表では，「人が聞く」システムに最適なミュージカルノイズを全く発生させない，新たな雑音抑圧手法を提案することを目標とする．近年，雑音に対して頑健な音声処理システムを実現するために，様々な雑音抑圧手法が提案されている．従来の単一チャネル雑音抑圧手法は，少ない演算量で高い雑音抑圧性能を達成することができるため，古くから研究されている技術である．しかし，その応用は音声認識の前処理などに代表される「処理音声を人が耳にしない」用途に限られる．これは，主に，非線形処理によって聴覚的に非常に不愉快な「ミュージカルノイズ」とよばれる歪みが発生するためである．ミュージカルノイズの発生は，その音質に与える影響の大きさから非線形雑音抑圧における重大な問題であり，ミュージカルノイズの発生を抑えた手法が望まれる．

近年，弱い非線形処理を反復的に入力信号に適用する反復型スペクトル減算法が提案されている．この手法は，高い雑音抑圧性能と低いミュージカルノイズ発生量の両方を達成することができると報告されている．さらに，雑音は抑圧されるがミュージカルノイズが全く発生しない内部パラメータが存在するという，非常に興味深い現象が発見されている．この現象は，単一チャネル非線形雑音抑圧において最も理想的な状態であると言える．以降，この現象を「ミュージカルノイズフリー」と呼ぶ．ミュージカルノイズフリーを達成することが出来れば，従来の非線形雑音抑圧手法では困難であった「人が聞く」システムへの応用が期待される．しかし，ミュージカルノイズフリーを達成する適切な内部パラメータは実験的にしか発見されておらず，理論的な根拠は全くなかった．そこで，本発表では反復型スペクトル減算法におけるミュージカルノイズを全く発生させない最適なパラメータを，高次統計量に基づいて数学的に導出し，「ミュージカルノイズフリー雑音抑圧」という新たな雑音抑圧理論として提案する．提案手法の有効性を確認するために，従来の雑音抑圧手法との比較実験を行い，提案法が総合的な音質の面で優位であることを確認した．

次に，上記の提案法をブラインド音声抽出に拡張した手法を提案する．従来の反復型スペクトル減算法では，雑音の定常性を仮定しており，非定常な雑音に対応できないという問題がある．この問題を解決するために，マイクロホンアレー信号処理と非線形雑音抑圧手法を組み合わせたブラインド空間的サブトラクションアレー (Blind spatial subtraction array: BSSA) という手法が提案されている． BSSA は，従来の単一チャネル雑音抑圧手法と比べて，特に非定常な雑音を含む実環境においては，高い雑音抑圧を達成することができ，実環境におけるハンズフリー音声処理システムに応用されることを期待されている．しかし， BSSA はスペクトル減算法に基づき雑音抑圧を行うため，多量のミュージカルノイズが発生し，致命的な音質劣化を引き起こす．そのため，「人が聞く」システムへの応用を考えたとき，BSSA は音質の面で大きな問題を抱えることとなる．そこで，本発表では，ミュージカルノイズフリー雑音抑圧と BSSA を組み合わせた，「反復型BSSA」という新たなブラインド音声抽出手法を提案する．反復型BSSA は，独立成分分析を用いて非定常な雑音を動的に推定するため，非定常な雑音に適用可能である．さらに，ミュージカルノイズフリー雑音抑圧に準拠しているため，処理後の信号にミュージカルノイズが発生しないことが期待される．提案法の有効性を確認するために，従来の BSSA との比較実験を行い，提案法が総合的な音質の面で優位であることを確認した．

ミュージカルノイズフリー雑音抑圧とブラインド信号抽出手法への拡張

宮﨑 亮一 (1051109)

宮﨑亮一 (1051109)