大脳の神経線維である鉤状束は認知機能に関連があり,認知症の影響を受けるといわれている. Tractographyを用いて鉤状束のDTIパラメータを調べると,認知症患者の方が健常者に比べて低い傾向があり, 健常者でも経年によって徐々に低下していくという報告もある. さらに,WMS-Rという記憶機能検査においては,高齢者の方がスコアが低い事実がある. 経年によってDTIパラメータが低下することと,高齢者の記憶機能の低下は確認されているが, 経年変化とDTIパラメータ,記憶機能の全てを総合的に調べたという報告はない.
そこで本研究では,認知機能について調べられた従来手法を記憶機能にも応用する目的で, Tractographyを用いて健常者の経年と鉤状束におけるDTIパラメータおよびと記憶機能の関連を検証した. 実験では,健常者の鉤状束のTractographyを描出し,その拡散テンソルパラメータを求めた. そして,WMS-Rのスコアとの相関係数を求めた. また,側頭幹と呼ばれる部分に着目し,同様に相関係数を求めた. その結果,左の側頭幹の線維方向の拡散率と視覚性記憶との相関係数が最大で,-0.405 であった.