監視・追跡を行う無線マルチメディアセンサネットワークにおける稼働時間延長のための経路制御手法

藤本 恭平 (1051096)


本研究では,移動オブジェクトを検知・追跡し,ユーザ端末に動画をリアルタイム配送する無線マルチメディアセンサネットワーク(WMSN)において,配送される動画の遅延時間や帯域幅などの制約を満たすと同時に,WMSN全体の稼働時間を延長することを目指した動画配送経路制御手法を提案する. 対象とするWMSNでは,常に最短経路での動画配送を行うと,ノード間でのバッテリ消費に偏りが生じることがある. その際,一部のノードのバッテリが枯渇し,センサによる監視領域の被覆性が損なわれたり,動画配送経路の分断が起こる可能性がある. それにより,システムが満足に動作しなくなり,結果としてWMSNの稼働時間を縮めてしまうという問題が発生する. さらに,追跡すべきオブジェクトが多い場合には,動画配信によるトラフィックの増加のため,ネットワークの輻輳が起こりやすい. それにより,遅延時間が大きくなったり,パケットの損失が増加する可能性がある. 本研究では,移動オブジェクトとユーザの地理的距離が大きいほど,動画の許容配送遅延時間を長く設定することが可能なWMSNのアプリケーションを想定し,許容遅延時間の範囲内でよりバッテリ残量の多い経路を選択することで,WMSNの稼働時間を延長する方法を提案する. 提案手法では,オブジェクトを検知したノードがソースノードとなり,イベント検知メッセージをブロードキャストする. イベント検知メッセージを受信したノードは自身のID,バッテリ残量,使用可能帯域幅などの情報を付加し,隣接ノードへブロードキャストする. ユーザが所持する携帯端末は,異なる経路を経由した複数のイベント検知メッセージを受信する. それらを動画配送経路の候補とし,その中から,遅延許容時間と動画配送に必要な帯域の制約を満たし,バッテリ残量最小のノードのバッテリ残量を最大化するような経路を選択する. 本手法の有効性を示すため,実環境をモデル化したシミュレーションにより,提案手法と最短経路手法によるWMSNの稼働時間を比較した. その結果,提案手法が最短経路手法に比べてWMSNの稼働時間を20〜30%延長できることがわかった.