拡張現実感における情報提示の特性とユーザの記憶効率の関連性

藤本 雄一郎 (1051095)


拡張現実感は実世界の特定の位置にあたかも存在するかのように仮想物体を重畳表示させる技術である.その有効性については今までに多くの研究がなされて いるが,今現在実証されている有効性は,実世界上に重畳表示された情報の視認性など,視覚に関係したものが主となっている. ここで, この技術の特徴に立ち返ると,その定義より拡張現実感でユーザに提示される情報は,本質的に「実世界上の位置」という情報を含んだものとなる. 一方,人間の記憶メカニズムには位置に関連付けられた情報は記憶しやすく,また想起しやすいという特性がある. 以上の二つの事実より,拡張現実感による注釈表示において「対象物体の位置に関連付けて情報を表示した場合, 無関係な位置に表示した場合と比較してそれを見たユーザの記憶に特定のポジティブな影響を及ぼす」という仮説を立てた. この仮説を示すことができれば, 拡張現実感を用いた作業支援システムが情報を提示することは,ユーザが作業工程を覚えるという観点においても有効であると示せる. 複数の被験者実験を通して,対象物体の位置に関連付けた表示を行った場合とそうでない場合の記憶結果の間に上記仮説を立証するいくつかの有意な差が見られた.