ESPARアンテナを用いた車載向け地上デジタル放送シングルRFダイバーシチ受信機

亀山 博紀 (1051032)


2003年12月1日に東京,名古屋,大阪の3大都市で開始された地上デジタル放送は,2011年7月24日の一部地域を除いた地上アナログ放送停波によって急送に広まっている.それにより,固定受信,車載受信,携帯受信はすべて地上デジタル放送を受信する必要がある.また,地上アナログ放送停波後の周波数帯の空き領域を利用して行われるマルチメディア放送では,自動車向けのデータ放送が主放送に重畳されて送信されることとなっており,車載受信機での地上デジタル放送の移動受信は必須の機能となりつつある.

地上デジタル放送の移動受信では,送信局から送られる電波が直接届くもの以外にも地面あるいは建造物によって反射,回折され,複数の経路を通じて受信されるマルチパス伝搬路によって受信信号が劣化する.特に,都心部では周囲の建造物が高く,テレビ塔からの放送波を受け取る伝搬路が見通せない.そのため,送信局からの直接波が届かず,周囲の地物などから反射したマルチパス波だけが受信端末に届く.したがって,複数の波が互いに打ち消し合うように合成されるマルチパスフェージングが起こり,受信信号振幅が大幅に低下する.

マルチパスフェージングを解決する技術として,2つ以上の受信アンテナを空間的に離れた位置に配置する空間ダイバーシチ受信が広く知られ,多くの車載向け地上デジタル放送受信機で使われている.このダイバーシチ受信機は高い受信性能を得ることができるが,それぞれのアンテナ素子の数だけアナログ信号処理部が必要となるためにハードウェア規模と消費電力が問題となる.また,ケーブルの配線スペースやコストも大きな問題となっている.

近年,この問題を解決するものとして,ESPAR(Electronically Steerable Passive Array Radiator)アンテナが提案されている.著者らの研究グループでは,このESPARアンテナを用いたW-LAN(Wireless - Local Area Network)向けのシングルRFダイバーシチ受信機を提案し,その性能を証明している.しかし,無線LANと地上デジタル放送ではパイロットシンボルの配置に違いがあるため,そのまま適用することができない.そこで,地上デジタル放送移動受信のためのESPARアンテナを用いたシングルRFダイバーシチ受信機を提案する.本発表では,従来の受信機と提案する受信機との違いについて述べるとともに,その性能について検討する.