三次元画像診断支援を目的とした肺結節のボリューム可視化法の開発

加村 翔平 (1051031)


近年, 医用画像機器の高性能化に伴い,高分解能,高精細な撮影が可能となり,体内に存在する微細な病変部を検出できるようになった.その一方で,患者一人から得られる画像の枚数が増加するに伴い,読影医の負担増加が問題となっており,かねてから計算機を用いて画像診断時における読影医の負担を軽減させる事を目的とした,医用画像診断支援システムの開発が望まれている.現在,主にCT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)などの撮像機器から取得された二次元断層画像などを対象とした医用画像診断支援システムの開発に関する研究が盛んに行われている.しかし,肺がんの画像診断において,肺結節は幅広い陰影を伴い,画像上に現れる性質がある.特に,早期肺がんの典型的症例であるすりガラス状陰影(GGO)は,淡い濃度変化を呈するため,すりガラス状陰影を伴う陰影を認識する事は難しいとされている.さらに,経時的変化によりPure GGOからSolid Noduleに至るまで,病期により異なる陰影を伴う.また,経時的変化の度合いや,画像上に現れる異常陰影の所見は,各患者に応じて様々である.このため,一意に設定された静的なパラメータでは,それらの病期に対応して,肺結節の高精度な認識を達成することは困難である. 一方,取得されたデータの三次元分布を基に,内部構造や未知なる構造探索する可視化分野では,同様にCTやMRIなどの撮像機器や様々なシミュレーションにより取得されたボリュームデータを用いて効果的な可視化を行う方法について多くの研究が進められている.ボリュームデータの内部構造を可視化する手段として,ボリュームの輝度値から色・不透明度(RGBA値)への変換を定義する伝達関数を用いた方法が広く利用されている.しかし,従来の伝達関数の設計では,各ボクセルの輝度値や座標系に依存した勾配情報を用いた一次元伝達関数が主流である.そのため,同じ輝度値や勾配情報を持つ物体を区別できないという問題がある.このため,同一スカラ値を持つ局所構造を考慮した効果的な可視化が期待されている. 本研究では,3つのステップで肺結節のボリューム可視化を実現する.1つ目のステップは,肺結節の分類に寄与するパラメータ分布を可視化した三次元特徴量空間を生成する.2つ目のステップは,生成した特徴量空間内をインタラクティブに探索できるユーザーインターフェースを設計し,特徴量空間内の任意で決定した関心領域を指定する. 3つ目のステップは,指定した関心領域の位置情報を基に色・不透明度(RGBA値)へと変換する多次元伝達関数の設計を行う.提案手法を用いて,GGOをはじめとする,幅広い病期に応じた肺結節を網羅的に三次元可視化する.そして, 医師が二次元断層画像を読影する際に,三次元ボリューム画像から病気の発見支援を可能とする,三次元画像診断支援システムの開発を目指す.  本手法を,肺結節を伴う医用画像データに適用した結果,正常な場合と異常陰影を伴う症例データとでは,特徴量空間の分布に違いが見られ,肺野内に存在する構造物の特徴量の分布を視覚的に確認できた.そして,特徴量空間の辺縁部に対して関心領域を指定する事で,幅広い病期に応じた肺結節を網羅的に三次元可視化可能であることを確認した.この事から,提案システムを用いる事で,体内に潜む病変を効率的に発見支援できる可能性が示唆された.