肝切除支援のための臓器切離プロセスの可視化

小田裕也 (1051024)


 肝臓がんの外科療法の一つである肝切除術は肝臓内部を走行する複数の脈管に沿って患部の切除を行わなければならないため,難易度の高い手術である.また,肝臓がんは他の部位に転移しやすく,手術には根治性と安全性が同時に求められる.しかし,実際の手術で執刀医は,術前計画時にCT画像などから得た肝臓の内部構造のイメージと実際に切離した部分から見える脈管の様子や術中に得られる超音波画像を照らし合わせ,どの方向へ切るべきか推測しながら徐々に切離を進めている.
 しかし,実際の手術では物理的な制約から肝臓を変形させた状態で切開をするため,内部の血管の位置関係が変わってしまい,術前に計画した切離面通りに切離を進められず,誤った切離をしてしまう場合がある.手術時に変形した状態での切離面を可視化し,切離を進めた際に現れる血管を可視化できれば,計画した通りの理想的な切開が可能になると考えられる.また,術中に執刀医は肝臓の切離した部分から見える脈管の様子から現在切離している位置を把握し,次の切離方向を決定していくため,切離の進行に伴って見えてくる内部の脈管の様子を可視化することで,それらをランドマークとして切離の進行過程を予めシミュレートすることができると考えられる.
 本研究では術中の臓器変形に着目し,肝切除術の支援を目的として術中に想定される臓器変形時の切離面をシミュレートし,切離プロセスを可視化する方法を提案する.入力された自由曲線に基づいて切離面を構成し,肝臓のCTデータを元に作成した四面体メッシュを用いて,有限要素法に基づく変形をさせることにより,臓器変形後の切離面の様子を可視化する.また,ボリューム像の各ボクセルの変位量を定義するDisplacement mapを用いて,切離部分を開いた様子を表現し,切離面の断面および内部構造を可視化することで切離を進めていく段階で見えてくる内部血管の様子を提示する.
 提案手法の有用性を検証するために肝臓のCTデータを用いて,臓器変形による切離面および切離プロセスの可視化した.医師による評価により,可視化結果が肝切除術の支援に有効であると認められたので報告する.