パルス列変調法を用いた高感度二光子顕微鏡イメージング

井元 兼太郎 (1051012)


 二光子顕微鏡は厚みのある試料でもスライスせずに観察することが可能であり,取得した画像を重ね合わせることで三次元画像を作り出すことができる.特に,生きた状態の脳の活動を観察できるため,脳神経科学分野において必要不可欠なツールとなっている.しかしながら,二光子顕微鏡で得られた画像を用いた大規模な三次元画像の立体可視化や探索は未だ達成されていない.そこで,本研究では大規模な二光子顕微鏡データの効率的解析法を実現するため,可視化に適した高感度な三次元データの取得法を考案する.

二光子顕微鏡では,観察深さが増加するとSN比が低下し観察画像が劣化する問題がある.二光子顕微鏡においてSN比が低下する主な原因は,焦点外から発生する蛍光である.焦点外蛍光はバックグランドとなり強度がそれ以下の信号を打ち消してしまう.マウス脳を用いた場合の二光子顕微鏡の最大可視化深度はおよそ1000 μmと報告されているが,ノイズの少ない高感度イメージングは達成されていない.また,脳組織中で主な観察対象となる神経細胞同士がつながるネットワークは灰白質層にあり,その厚みがマウスや人ではほぼ1000 μmであることから,1000 μmまで高感度に可視化することが望まれている.

本研究では,深さ1000 μmまで高感度イメージングを達成するために二光子顕微鏡に電気光学効果素子 (EOM) を用いたパルス列変調法を導入した.パルス列変調法とは矩形状にパルス強度を変調し入射強度を減弱させる方法である.この手法を用いれば高いピークパワーを持つレーザーを試料に入射することが可能となり,二光子励起効率を向上させることができる.さらに,パルス列変調の効果が顕著に表れるように光学系を最適化することで二光子励起効率を向上させた.そして,脳ファントムを用いて感度評価実験を行い深さ1200 μmまで観察可能であることを確認した.加えて,パルス列変調法を使用することで,従来手法に比べSN比を最大22 dB上昇させることができた.また,1000 μmまでは蛍光粒子像の強度分布はイメージング深さの違いに依らずほぼ等しいことを確認した.さらに,SN比の限界を明らかにするため物理モデルを作成し,二光子顕微鏡におけるSN比の理論限界を求めた.実験値と理論値を比較した結果,開発した二光子顕微鏡は理論限界に迫る性能であることを示した.

本手法を使用することでSN比の高い高感度画像を取得することができ,脳機能の解明に貢献できることが期待される.