光ピンセット細胞触診システムを利用した細胞接着形成過程の研究

西尾 徹(0951154)


内容梗概

細胞接着は細胞増殖、細胞骨格形成への関与といった細胞内シグナル伝達、及び外界からの物理的防御機構形成など、生体において重要な役割を担っている。具体的には接着斑と呼ばれる複合体がその機能を担っており、アクチン、インテグリン、ビンキュリンなどの接着関連因子を通して、細胞局所において細胞と細胞外マトリックスの結合を行っている。近年、細胞接着はウイルス感染やがん転移機構との関連が示唆されており、接着機構の詳細な解明に対するニーズが高まっている。しかし、細胞接着強度に関する定量的な基礎情報が不足している点、また接着関連因子と細胞接着強度の関係が不明である点が課題であり、未だに細胞接着の詳細な機構解明には至っていない。そこで本研究では、光ピンセット細胞触診法を用いて細胞接着形成過程について調べた。 この計測法は、コラーゲンコートした直径2 μmの粒子を光ピンセットで操作して細胞に接着することで、細胞-粒子間にイニシャルアドヒージョンを形成させ、pNオーダーの力を細胞に印加した際の、細胞からの反力を計測して接着に関連する力学的特性や強度を評価する方法である。本研究では、本計測システムを用いて、細胞の局所的な力学特性を計測評価し、細胞接着における基礎的な定量情報を得ることを目的としている。 接着斑形成過程の測定の結果、粒子付着後に徐々に細胞接着が形成されて、細胞からの反力が大きくなることを確認した。また、本研究では粒子を接着させた30分後に、微小管脱重合阻害剤であるTaxolを添加し、再度30分接着形成を行うことで、微小管脱重合阻害が細胞強度に及ぼす影響を計測した。その結果、一部の細胞種において微小管脱重合阻害によって有意に細胞強度減?が起こることを確認した。また、細胞触診法での計測結果について考察するため、抗体を用いた細胞触診法を行った。その結果、細胞の生物学的特性であるファゴサイトーシスが、細胞触診法での計測結果に影響を与えうることを示した。