生体分子の長時間観察のための一粒子追跡法の開発

貞島 祥平 (0951150)


細胞表面に存在する膜タンパク質は、情報交換やシグナル伝達などの重要な細胞機能に関与しており極めて重要なものである。膜タンパク質の機能や役割を解明するには、生きた細胞中での挙動を調べることが不可欠である。一粒子追跡法(Single particle tracking: SPT)は、一つの粒子(プローブ)の動きを追跡し、その挙動を解析することにより拡散係数、拡散の方向性、拡散の種類などの情報を得ることができる計測手法である。さらに、時々刻々と挙動が変化する様子を場所と時刻を特定して解析すると、これらの情報のマップや経時変化を知ることができる。従来SPTでは主に金コロイドがプローブに用いられてきたが、金コロイドよりもサイズが小さい蛍光色素をプローブに用いてSPT計測を行なえれば、標的分子の挙動への影響を小さくし、挙動をより正確に計測することが可能になる。しかし、一般的に蛍光色素が発する蛍光は微弱であり、限られた時間しか蛍光発光しないため、観察には制限があった。そこで本研究では、蛍光励起に用いる光源を矩形状に強度変調させてSPT計測することで細胞中での挙動の長時間観察を可能にする手法を考案した。本手法では蛍光像の撮像間隔に対して短い時間のみ照明光を照射して蛍光励起し、対象分子の像を得る。そうすることで、蛍光分子が励起される時間の割合を減らして長時間追跡可能にすることを目指した。そこでまず、矩形状に強度変調させた光源によるSPTの計測系を構築し、評価実験を行った。次に、本計測装置を用いて生細胞内中のインテグリンの挙動を観察した。その結果、インテグリン由来の分子の拡散係数計測に成功し、本手法による生体分子計測の有用性が示された。今後、本計測装置を、蛍光タンパク質を用いたSPTに適応させることが期待される。