多数傷病者事故における救命率向上のための電子トリアージタグを用いた傷病者搬送計画手法

水本 旭洋 (0951119)


本発表では,多数傷病者事故において,救命率の向上を目的に,電子トリアージタグを用いた傷病者の搬送計画手法を提案する. 多数傷病者事故において,傷病者の重症度を4種類に分類するトリ―アージが行われる. 現在は紙のトリアージタグを用いて,トリアージを行っているが,同じカテゴリに分類された傷病者の間では優先順位は決められておらず, 最も緊急な傷病者から順に搬送されているとは限らない. 近年,傷病者の生体情報を実時間でセンシングし自動で重症度の判断を行う電子トリアージが開発されている. また,傷病者の生体情報などから傷病者の生存率を予測する手法も提案されており,提案手法ではこれらの技術を利用して搬送計画を行う. 提案手法は,傷病者,救急車,医療機関,応急救護所がそれぞれ複数存在する時,救命率(最終的に生存する傷病者の割合)が高くなる順序で傷病者を搬送する問 題を解決する. この問題は,生存のために最低限必要な予測生存率以上で搬送が完了する傷病者数を最大化するように傷病者の搬送順序を決定する搬送計画問題として定式化できる. 傷病者の予測生存率は時間と共に減少することが医療統計学的にわかっている. そのため,提案手法では,予測生存率の減少が早い傷病者から先に搬送するために, まず傷病者に装着した電子トリアージタグから収集した生体情報に基づき予測生存率を算出する. そして各時点での予測生存率を既存の予測生存率の変化モデルであるカーラーの救命曲線に当てはめ,時間経過に対する予測生存率を推定する関数を生成する. この生成した関数を用いて,救命のために必要な搬送限界時刻を求め,これが早い傷病者から順に救急車を割り当てる. また,1人を搬送することで,後から搬送される2人以上の傷病者が救命できなくなるケースを避けるために,各傷病者に対し搬送する場合と搬送しない場合の両方を効率良く探索し, 予測救命者数が多くなる順序を求める. 多数傷病者事故の典型的なシナリオを用いたシミュレーション実験により,提案手法は既存の搬送手法と比べて7%以上高い救命率を達成することを確認した.