多値変調を用いた衛星通信における信号重畳キャンセラの非線形補償についての研究

松田裕貴 (0951117)


 近年,衛星通信の需要の増加に伴い,衛星通信の高速大容量化と増幅器の電力 の利用効率の改善が求められている.衛星通信における周波数の利用効率の向上 が高速大容量化を達成するための鍵となる.この周波数の利用効率を高める手段 として検討されているのが,衛星通信キャリア重畳方式である.この方式は従来 別々の周波数帯で伝送していたものを,自局の送信信号と相手局の送信信号を同 一の周波数帯で伝送することにより周波数の利用効率を最大で2 倍にすることが できる.ただし,同一の周波数帯で同時に伝送するので,自局の送信信号が干渉 となり,受信側では自局の信号をレプリカ信号として生成し,受信信号から減算 することで相手局からの送信信号を得ることが出来る.

また,衛星通信において,宇宙空間では電力を自由に使うことが出来ない衛星に 搭載されている増幅器や,送信側の地球局の増幅器において電力の利用効率の改 善が求められている.この目標を達成するためには,前述の衛星通信キャリア重 畳方式だけでなく,衛星通信に用いられる増幅器を非線形領域まで稼動させるこ とにより,通信の高速大容量化と電力の利用効率の改善の2 つの目標を達成する ことが可能である.従来の研究では,P-MP システムにおいて衛星に搭載されて いる中継器の非線形増幅器の歪みの影響を考慮しているが,P-P システムには対 応していない. 本研究ではP-P システムを含めた,より代表的なネットワークに おいてこの問題を検討している.

本論文では,非線形領域における増幅器の検証実験の結果を示し,従来検討され ていないP-P システムの衛星通信キャリア重畳方式における衛星搭載増幅器の 非線形歪みの影響について考慮し,非線形歪みを補償した干渉キャンセラを提案 し,検討・評価を計算機シミュレーションで行うことにより有用性を示すことが できた.