状態予測むだ時間制御の安定化・安定性に関する研究

西田 将人 (0951091)


制御問題を考える上で,むだ時間の存在は実用上および理論上の困難をもたらす. とりわけ非定常なむだ時間の取り扱いは難しいが, 鉄鋼, 化学などの製造プロセスにおいて, 安定操業と生産性向上の観点からおこなわれるラインの加減速は,不可避的に入出力の時変むだ時間を生じさせる. 時変の状態むだ時間系の解析・設計に関しては, ロバスト安定性の観点に基づくLMIアプローチ等が多く存在するが, 時変入出力むだ時間系に関してはあまり注目されてこなかった. しかしながら,搬送遅れ系において加減速パターンが既知,すなわちむだ時間が時間関数として与えられるならば, 時不変入出力むだ時間の補償と同様に,状態予測器とオブザーバを用いた補償器を陽に構築することができる.

また,それら補償器を用いた閉ループ系に対し,系のエネルギーに着目した安定解析がおこなわれている. 具体的には,まず搬送系を偏微分方程式系(PDE)とみなし,それと集中定数系(ODE)の直列結合を入出力むだ時間系として扱う. それに対する閉ループ系の安定性を考える際に,その系と等価なPDE-安定なODEの開ループ系が得られるBackstepping変換を適用する. 得られた開ループ系において,系のエネルギー関数に相当するLyapunov-Krasovskii汎関数を構築し, その時間変化率を評価することで系の安定性が証明される. ところが,先行研究におけるその安定性の証明において一部問題点があり反例が存在することが明らかになった. そこで本研究では,加減速を伴う搬送遅れ系に対するむだ時間補償器の導出と,先行研究における問題点の提示, それを解決するための修正案の提案を目的とする. また本発表では,導出した補償器の紹介,先行研究における問題点の指摘,並びにそれに対する修正案の紹介をおこなう.