無線センサネットワークでの省電力やノードの停止・追加を考慮した自己安定データ収集手法

坂口 隼 (0951059)


無線センサネットワークとは,地理領域の情報を取得するためのシステムであり,シンクノードとセンシング機能・無線通信機能を持つ電池駆動のセンサノードによって構成される.各センサノードは計測した周辺環境の情報をシンクノードに収集する.本論文では,無線センサネットワークの稼働時間を延長しつつ,センサノードの電池切れによる停止や追加に自律的に適応するデータ収集手法を提案する.

データの収集はマルチホップ通信によって行うため,センサノードはシンクノードに近いほど他のセンサノードのセンシングデータをより多く中継しなければならず,電池を早く使い果たす可能性がある.そのため,中継ノードの電池残量を考慮した転送経路を選択する必要がある.しかし,このような負荷分散を行っても,センサノードはいずれ電池を使い果たし停止してしまう.停止したセンサノードを補うために,新たなセンサノードを追加することが多い.センサノードの停止や追加によってセンサノードの配置が変化し,それまでの転送経路が断絶したり,より効率の良い転送経路を新たに構成できる可能性がある.このような場合,センサノードの停止や追加に応じて自律的に転送経路を再構成できることが望ましい.

無線センサネットワークは広大な地理領域に適用する際,非常に多くのセンサノードによって構成される.そのため,無線センサネットワークにはスケーラビリティのある設計が望ましく,分散処理による制御が適している.自律適応性を持つ分散アルゴリズムの設計手法として,自己安定アルゴリズムがある.自己安定アルゴリズムとは,初期状況にかかわらず,システムが目的のふるまいを行うことを保証するアルゴリズムである.

本研究では,無線センサネットワークの稼働時間延長とセンサノードの停止や追加に応じた自律的な転送経路の再構成を実現する自己安定アルゴリズムを提案する.提案手法では,センサノードの消費エネルギーを抑制するために,センシングとデータ収集に必要なセンサノード以外の,不要なセンサノードを休止させる.そして,DAGを構成することで各センサノードからシンクノードへの経路を複数構成し,さらに提案手法では,センサノードの停止によってセンシングデータがシンクノードに到達しないことを回避するために,各センシングデータを多重化しつつデータ収集を行う.提案手法は,ネットワークの直径に比例した時間で目的とするデータ転送経路を構成する.

これまで,自律適応性を持つ手法は存在したが,センサノードの停止が生じた際に収集途中のデータの損失を防ぐ手法は無かった.本研究により,自律適応性を備え,かつ,センサノードの停止や追加に対応したデータ収集を可能とする無線センサネットワークを実現する手法を示した.